「おなかのコード」 (その4)


 現在、人類の半数以上は働いていない。大多数の人間は高度な科学力に追いついていけないので仕事をしたくても雇用がないのである。しかしロボットおかげで社会保障が充実し無職でも食料に困る事はない。野心や向上心がなくてもとりあえずは生きていける。仕事をせず暇をもてあましている人間は緊張感のないぬるま湯につかっているような生活を死ぬまで続けるのだ。

 ロボットの発展とは裏腹に人類はこれ以上進化できないのかもしれない。地球上で人間が考えつくものは全て出尽くし、新しい物を生み出す余地が少なくなった。新しい発見だと思っても調べてみると必ず誰かが先に考えていたり既にあるものの組み合わせが違っているだけだったりする。

 円熟して進歩が止まった人類は絶滅に向かっているのだ。そして次に地球上で人間に代わって進化してゆくのはロボット達なのかもしれない。

 仮に人類が滅んだ場合、指令を与える人間がいなくなりロボットの存在意義がなくなるのかもしれない。しかしロボットにとっては自分の存在意義などどうだっていいことだ。プログラムにそって動き続けるだけだ。

 人間だって自分の意思で生まれたわけではなく、後天的に他の人間とのつながりによって存在意義が生じてくるにすぎない。人類がいなくても地球は回るのだ。人間は欲望によって動かされ、ロボットはプログラムによって動いている。

 ロボットを観察してみるとまるで意思を持っているかのように見えることがある。作業の合間にじっと止まっていると何か考え事でもしているようである。たまにプログラム作成者の意図とは別の動き方をすることもある。それに同じロボットが数台で同じ作業をする場合でも僅かではあるがそれぞれ違った動きをする。時間が経過すると少しの差が段々とはっきりとした違いになってロボットの個性となる。そのうちプログラムのバグから突然変異で意思を持つロボットがあらわれるかもしれない。

 ロボットが得た知識や経験は次の世代に丸ごとデータとして引き継ぐことができる。人間ならば生まれてから経験や学習によって苦労して覚えたものでもロボットなら製品化されたときから知識や経験がメモリーに記録されている。

 人間が行っていた作業はほとんどがデータ化されていて、人間国宝級の複雑な絵柄の皿や有名な絵画など本物と区別がつかないような物が大量に生産できるようになった。有名な芸術作品でも本物かどうかが全く分からず贋作による詐欺事件も多数起きている。

 経験が必要とされる職人技でもロボット同士でデータをやり取りするのでまったく初めての仕事でもすぐにできる。人間界で職人と呼ばれる者たちはほとんどがロボットのオペレーターとなり自分達の能力以上の繊細な手作業でもロボットを使えば簡単にできるようになった。職人はロボットにイメージを伝えることが主な仕事になってしまい、自分で手を動かして物を作ることがほとんどなくなった。

 ロボットは重い生命維持装置を背負わなくても死の恐怖なしに宇宙空間でも深海でも活動できる。細菌にも感染することなく危険な医療の現場でも活躍している。

 かつては宇宙旅行が人類の夢であった。しかし人間が遥か彼方の天体へ行くには膨大な時間がかかりそれだけで人生を棒にふってしまう。未知の宇宙空間では予測不可能な事態も起こりうる。想像を絶する高速ですれ違う隕石がかすっただけでちっぽけな宇宙船は大破する。

 激しいエネルギーを持つ天体の前では人間が作り出した宇宙船などは無力だ。生還できる保証はない。命の替えがない人間には宇宙旅行は危険すぎる。人間が物見遊山で宇宙旅行できるのはせいぜい月ぐらいまでだ。

 現にロボットを乗せたロケットは無数に太陽系の外へ出て宇宙で起きうる様々な現象を観察し、データを地球に送っている。しかしそれらは地球に帰ってくることはない。音信不通になればそれまでのことである。
(2008.03.17) 

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  © 2008 田中スコップ 路上のゴム手
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