「おなかのコード」 (その3)



 窓のない格納庫は昼間でも暗い。ロボットは入り口にある電灯のスイッチを入れると裸電球が点灯した。

 彼には赤外線センサーも付いていて暗闇でも活動できる。しかしバッテリーの負担が大きくいつもそのセンサーを作動させているわけではない。通常はある程度の明るさがある状態で物体を認識する。

 外で活動していた彼のバッテリーは残り僅かとなっている。胴体についている数種類のメーターのうち電気の残量を示すインジケーターランプが赤色になって点滅し始めていた。新品の時は一回の充電で最低でも三日間は活動できたのに十年近くも同じバッテリーを使っていると二日ぐらいしかもたなくなった。

 前の持ち主は機械の知識に乏しく自分のロボットのメンテナンスをあまりしなかったらしい。保証書の期限内であればメーカーに頼めば交換してもらえるのだが既に保証期限が切れている。もっとも持ち主がいないので保証書があってもなくても関係ない。

 このまま放っておくと数時間で完全に活動停止する。

 彼はおなかのカバーを開けて中にある充電器を取り出し壁のコンセントに接続した。そしてさらに奥からコードを引き出しその充電器につないだ。

 ロボットはコンクリートの壁に向かって正座し、充電が完了するのを待った。通常一時間程度で充電が完了するはずだ。しかしいつまでたってもインジケーターランプの点滅は止まらない。それどころかバッテリーの残量はさらに減っている。彼はなぜバッテリーが充電されないのか分析した。

 充電器は様々な環境で使用できるように設計されてはいるが、彼は充電器が耐えうる以上の劣悪な環境で働いてきた。どこかでぶつけたらしく充電器のカバーが少しへこんでいる。そのため充電器の蓋に隙間ができてそこから水が浸入し回路がショートしていた。  

 出先では充電途中でもおかまいなしに活動指令が出る。ロボットたちは一斉に動き出すため、そのどさくさでぶつけてへこんでしまったのだ。

 あいにく彼は充電器用の補修部品を持っていなかった。

 彼は壁のコンセントからコードを抜き充電器をおなかにしまって部屋の外に出た。

 本来ロボットは人間の補助的役割を果たしているはずであった。しかし人間は便利さを追求するあまり年を追うごとにロボットの数は増えていき、ロボットなしでは食料の確保すらできなくなっている。そして地球上の全ての国が先進国化した今では人口は減少の一途を辿っている。

 また高度の医療が発達したため平均寿命は百歳を超えた。しかし老衰のため身動きが取れなくてもロボットの介護により生かされている人間も多い。

 もはや資源採掘や製造現場での重労働に人間が携わることはなくなった。そのうえ知的生産活動にもロボットの存在が不可欠となっている。

(2008.03.03) 

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  © 2008 田中スコップ 路上のゴム手
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