愛・世界博 宇宙電波館(その60)



 何を言い出すのだ。私には愛人など囲える余裕はない。彼女が給料の計算をしているのだから、私がいくら貰っているか分かるはずだ。私は口をあけたままびっくりした顔をしていると事務員は「プッ」と吹き出し、

「冗談です。でもこうやって配達なんかしてると私が仕事をする時間がなくなっちゃいます。事務所に帰っても定時じゃ私の仕事が終わらないかもしれないから今日は私も残業しますよ。今日は少々遅くなってもいいんです。でも社員旅行の時、あんなことをしちゃったんだから少しぐらい近くに寄ってもいいですよね」

 事務員はそう言うとハンドルを持つ私の腕に自分の腕を絡めて体を寄せてきた。

 彼女の胸のふくらみが服を隔てて私の腕に伝わってくる。私はなりふり構わず彼女を抱きたい衝動にかられたが、頭の中に妻の顔が浮かんだ。私は衝動を押さえて体を硬直させていたが、顔だけを事務員の方に向けた。

 彼女は目を閉じて私の肩に顎を乗せている。私が顔を少し近づけるだけで唇が接触しそうだ。私はもうその手には乗らないぞと思ったのだが、無下に突き放す事ができなかった。私は唇を接触させる代わりに私の頬を接触させ目を瞑り暫くそのままじっとしていた。

 不意に後方の車輌からクラクションの音が聞こえてきた。私が我に帰ると前方の信号は青になっていた。そして前にいた自動車はすべて走り去っていた。私は慌ててワゴン車を発進させた。

 それから程なくして私達は取引先の輸入雑貨店に到着した。私は納品先でダンボールに入った商品を運びながら、今度女子事務員と間違いがあると後戻りが困難になりそうな予感を感じていた。事務員はさすがにコサックダンスで鍛えた足腰をしているので私が二個運ぶ間に三個ぐらいのペースで商品を運んでいる。

 私がワゴン車に戻って商品を持ち上げて横に移動したら、たまたまそこに早足で帰ってきた事務員がよけきれずに私に接触した。私の背中に事務員の柔らかい体がぶつかり彼女の顔が近づいてきた。

 私の耳元に彼女が呼吸する風を感じた。そしてほのかに化粧品の匂いがする。彼女は体を私に押し付けるようにしてワゴン車の荷台に割り込んだ。

「邪魔です。早くしてください」

 彼女は私の側面に体を接触させたままワゴン車の奥のダンボールを取り、手前に引き寄せた。そして私に構わない素振りをして商品の入ったダンボールを持って取引先の店内に入っていった。

 女子事務員は社内での神経質な雰囲気とは打って変わって取引先では愛想が良く、キビキビと動いたので顧客には印象が良かったようだ。私をそっちのけで彼女は相手方の担当者と個数の確認や検品作業を行ってサインを貰っている。あまりに段取りが良く私の出番がない。

 普段、私が一人で行った時は先方の担当者が何かとネチネチと文句を言う。そして個数の確認や検品もモタモタして時間がかかってしょうがないのだが、今日は事務員の手際のよさに呆気に取られて、文句を言う間もなく確認のサインをしていた。

 彼女のおかげで納品が思ったよりも早く済んだ。缶コーヒーでも飲んで少し休もうと思ったが、営業マンは普段から外回りでサボっていると思われてもいけないのですぐに会社に向かった。これから次の取引先に行くために続けて大量の商品をワゴン車に積まなければならない。昨日休まずに運送屋を手配しておけばわざわざ自分で届けなくてもよかったのだ。

 会社に帰るため私はワゴン車を発進させた。女子事務員はしきりとあくびをし始めた。そして彼女はウツラウツラと眠り始め、運転している私の方へもたれかかってきた。私は肩に彼女の重みを感じながら運転を続けた。

 私がブレーキをかけると彼女の体が前のめりになって、彼女は一時的に目をさましたがすぐにまた私に寄りかかって眠った。事務服のタイトスカートが少し上にずり上がっている。私がちょっと位置を変えて覗くと白いものが見えている。彼女に警戒感や緊張感というものは無いのだろうか。

 ワゴン車は会社に近づいてきた。彼女がこのまま私にもたれて寝ていたらほかの社員から関係を疑われてしまう。私は彼女を起こそうと思い、声をかけた。

 彼女は熟睡しているので少しばかり声をかけただけでは気が付かない。私にもたれかかっている彼女の頭を少し揺すってみた。

 彼女は突然ハッとして目が覚め、辺りを見回すうちに自分のスカートがずれていることに気が付いた。そしてスカートを引っ張って下にずらし、こちらを向いて睨んだ。

「見ましたか?」

 私は

「何を? 見てないよ」

 とそっけなく、あたかも興味がないように前を向いたまま言った。

 女子事務員は、怪訝そうな表情をした。

「変です。女の子のスカートがずれてて気にならないのはおかしいです。私が寝てて無防備なのをいいことに触ってみようとか思ったんじゃないですか? でもいいんです、少しぐらいは。普通の健康な男の人だったら絶対に変な事をしたいと思ってるはずです。もう少し見たいですか?」

 彼女は再度スカートの裾を持ち、上に引っ張ろうとした。


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