愛・世界博 宇宙電波館(その51)




 万博からの疲れが取れないまま仕事の疲れが蓄積してゆく。家に帰ると妻と子供はすでに眠っている。冷蔵庫から缶ビールを取り出し、電子レンジで夕食を温めている間に居間のソファーに座りテレビをつけた。テレビではニュースで「愛・世界博」はあと十一日だと報道している。画面には賑やかな人気パビリオンの風景を映し出されている。

 あと十一日か。誰にも邪魔されずに一人で「宇宙電波館」に行ってみたい。私の股間の一部分はどうして最後まで続かず途中で力尽きてしまうのか。もう一度あの場所に行ってみると回復するヒントがつかめないだろうか。と考えているうちに猛烈な眠気が襲ってきて、電子レンジが鳴ったのに気が付かず、手に持っていた缶からビールが床にこぼれているのにそのまま体がソファーに倒れていった。

 翌朝ネクタイをしたままソファーに寝ている私を妻が発見した。テレビはつけっぱなしで手に持っていた缶ビールは床のカーペットに落ちて中身がこぼれ床からアルコール臭がしている。私は妻に起こされ、汗臭いワイシャツを強引に脱がされた。

 私はバスルームに向かい、シャワーを浴びた。顎を触ってみると無精髭が生えている。シャワーを背中に浴びながら風呂場にあるプラスチックの小さい椅子に座って、剃刀で髭を剃った。疲れが依然として残っているのでそのままシャワーを浴びながら目を瞑って暫く下を向いていた。今日は仕事を休みたい。

 風呂から上がり、パンツを穿くと再度布団に倒れ込むように寝転がった。家を出なければいけない時間が迫っている。妻が私を揺らし、

「時間が無くなっちゃうわよ」

 と起こそうとする。私にも時間が無いことぐらいわかっている。意識は覚醒しているのだが体が動こうとしないのだ。私は深く呼吸をするとゆっくり体を持ち上げた。シャツを着て、クリーニング済みのワイシャツを着た。昨日まで着ていたスーツもヨレヨレになっているので洋服ダンスから違うのを出した。

 近くの駅まで歩いている最中でも、

「ああ、疲れた。休みたいな」

 と独り言を呟いてしまい、誰かに聞かれてはいないかと周りを見回してしまった。

 山手線の吊革に両手で掴まり、目を瞑り「宇宙電波館」で体験した圧倒的な快感を思い出してしまったので、股間の辺りが膨らみ始めた。疲れているときに限って変な妄想をしてしまうのだ。

 どうせ知らない連中ばかりだしそんなに股間の膨らみなど目立ちはしないだろう。しかしパンツの中で拘束されたまま膨らむものだから少し痛い。私はズボンのポケットに手を突っ込んで位置を修正しようとした。

 私の目の前には通勤途中の若い女性が座っている。携帯電話で夢中になってメールを打っている。目の前でゴソゴソとしている私に気付いていないようだ。電車が駅のホームに滑り込んだ。前に座っている女性が立ち上がった。そして彼女は人混みをかき分けて出口に向かおうと歩き始めたとき、私の耳元で、呟くように、

「変態」

 と言って風のように何処かへ去って行った。

 私は変態でも痴漢でもない。第一自分の一部分の位置を修正していただけなのにあらぬ疑いをかけられては困る。しかしその女性はどこに行ったのかわからないので私は弁解のしようがないではないか。あの女性の目にうつった私は永遠に変態のままになってしまう。

 私は下を向き、気を取り直して目の前の空いた席に座ろうとしたが近くにいた太ったおばさんが汗をハンカチで拭きながら、私より先に狭い座席に尻をねじ込んで座ってしまった。

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