愛・世界博 宇宙電波館(その49)



 翌朝布団から起き上がると全身が倦怠感に包まれ、外は明るいのに意識ははっきりしない。妻が横で言った。

「朝よ。起きなきゃ。仕事、休みじゃないでしょ?」

 起き上がろうとすると体の関節が軋む。私は布団の上に座り目を瞑ったままうなだれて、

「ああ疲れた」

 と弱音を吐いた。妻は、

「あなた、何言ってんのよ。自分だけ遊びに行って、ああ疲れたはないでしょ。私だって子供をほったらかしで遊びに行きたいわよ。さっさと起きて仕事してきなさい」

 と私に起きるよう促した。私は顔を洗い、ワイシャツを着て、ネクタイを結んだ。半分寝ぼけているので、ネクタイがなかなか決まらず何度も結びなおしてしまった。食欲も湧かないので、水を飲んだだけで何も食べずに家を出た。

 会社に到着すると他の者も疲れているのかみんな覇気がない表情をしている。私は机につきメモ帳を広げ今日の予定を確認した。そしてアタッシュケースにカタログや販売資料を詰めていると、社長が私の所に寄ってきて、

「おはよう、昨日はご苦労さん。一昨日駅のホームで転んだ彼ね、今朝電話があって、昨日早く帰って病院に行ったら、肋骨にヒビが入ってたみたいで今日は休むってさ。それでね、済まないけど今日はどうしても彼が行っとかなきゃならないお得意様があるんだけど、代わりに行ってやってくれない? お得意様はここにメモしてあるからさ」

 と私にメモを渡しながら酔っぱらいの営業マンの代わりを頼んだ。奴は完全なアル中なので骨が脆くなっているのであろう。私はそのメモを見た。時折、搬入の手伝いで行ったことはある所ばかりだが、他人の営業先の内容まではわからないので自信がない。しかし今日は自分の仕事が手一杯で、しかも疲れているのにさらに仕事が増えるのは辛い。社長が自分で回ればいいのだ。と思ったが、知らぬふりをするわけにもいかず、

「出来るだけがんばってみます、でも全部はちょっと……。他にも営業がいるじゃないですか。少しは分担してもらえないでしょうか」

 と言うと社長は、

「まあ、出来るだけでいいから。がんばってくれよ。頼んだよ」

 と言って私の肩をポンと叩いた。ただでさえ定時には会社に帰って来られないのに、今日はさらに遅くなりそうだ。

 事務員が電話で話している。疲れていないのだろうか、彼女だけは朝からエンジン全開である。酔っぱらいからの電話であろう。

「何言ってんですか。社員旅行の怪我じゃ労災保険は効きませんよ。酔っぱらって転ぶ自分が悪いんです。まったく自業自得です。何日休もうが結構ですけど、お給料は休んだ分だけ引いときますから。えっ? 休業補償? ピントがずれた事ばっかり言わないで下さい。そんなの知りません。働かずにお金を貰おうったってそうは問屋がおろしませんよ。自分で掛けてる生命保険を使って下さい。それが嫌なら這ってでも会社に来てタイムカードを押して下さい」

 事務員は受話器をガチャンと叩き付けるように置いた。確かに自業自得だが、もう少し優しい言葉が出ないのか。

 まもなく朝の朝礼が始まる。社員達は席を立ち、移動を始めた。事務員以外はみんなダルそうにしている。私もはっきりとしない頭で机の間を歩いていたがつい椅子の端に足をぶつけてその椅子を倒してしまった。ガチャンという大きな音がしたのだがみんなは無関心にゾロゾロと事務所の広い所に集まっていった。

 朝礼場所にはどこで社長が手に入れたのか分らないが社訓が印刷された紙が額縁に入れて飾ってある。社員旅行のときに使った宴会場で記念品としてもらった方言が書いてある手拭いもなぜだか押しピンで壁に貼って飾ってある。


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