愛・世界博 宇宙電波館(その47)



 新幹線に乗り換える時、多少時間に余裕があった。その時間を利用して土産の買い物をすることになったが私は体がだるく動くのが億劫だったので、みんなの荷物番をすることにした。

 新幹線の待合所の近くにはショッピングモールのように土産物を売る店が軒を連ねている。万博会場でさんざん土産を買ったはずなのに、まだ足りないのだろうか。社員達は蜘蛛の子を散らすようにそこら辺に拡散してしまった。先程涙を浮かべていたおばちゃんも買い物となるとまた目を輝かせていた。

 私の周りに社員は誰もいなくなったので、みんながどんな物を買ったのだろうと思い、好奇心に駆られて荷物をちょっとだけ覗いてみた。おばちゃんたちはあれだけキャラクターグッズを漁っていたにもかかわらず一つも買っていない。食い物ばかりだ。

 社長の包みは大きな袋に同じ形のものが大量に詰め込まれている。社長と行動を共にしていた営業マンは万博のキャラクターをかたどったクッキーの包みが三個と、御利益があるのかどうかわからないがキャラクターのイラストが刺繍してあるお守りが一ダースぐらいあった。あのおっさんにはかわいい絵のお守りは明らかにミスマッチだ。きっと飲み屋のねえちゃんに配るために買ったのではないかと思う。いったいどこでお守りを売っていたのだ。

 事務員の袋には私と同じ「赤スパゲッティ詰め合わせセット」が入っているではないか。よく見つけたな。男子アルバイト君も同じものを買っている。家で食ってびっくりするなよ。

 あまり人の荷物をジロジロ見ても不意に社員が帰ってきて不審に思われても困るのでここら辺でやめておこう。

 近くにベンチがあったので私はみんなの荷物が見えるところに座った。座った途端に疲れが肩に重くのしかかり、猛烈な眠気が襲ってきた。瞼が重い。目が閉じていく。いけない。荷物を盗られたら私の責任になって弁償させられるかもしれない。眼球が裏返っても更に瞼を開けたままにしようとしたので白目をむいてしまった。

 そして白目のまま眠りこけてしまい、よだれをたらしながら、時々膝をビクンと震わせ寝言で「ぐえー」と何度か唸り声をあげてしまったものだから、周りの客が気持ち悪がって駅員を呼んだ。

 駅員は私に、

「大丈夫ですか。意識はありますか?」

 と話しかけ、肩をトントンと叩いたので私はビクッとして意識が戻った。そして私はキョロキョロと見回すと、駅員が顔を近づけて覗いているものだから、びっくりして、

「うおっ」

 と声を上げてしまった。駅員も同時にびっくりした。駅員はもう一度、

「だっ、大丈夫ですか。救急車を呼びましょうか」

 と私に聞いたのだが、今現在、私がなぜ駅員に心配されているのか状況がまったく把握できていない。しかし救急車を呼ばれて私がこの場からいなくなると、他の者達は私をほっといて帰ってしまうだろう。それに疲れているということ以外、体に異常はない。私は、

「大丈夫です。私、どうかしましたか? 」

 と駅員に反対に聞いてしまった。駅員は、

「近くのお客さんから白目を剥いて唸っているお客さんがいると通報があったもので、ご病気の方かと思ってやってきたのですが、お客様はお休みになられていただけのようですね。何か夢でもご覧になっていたようです。ご無事のようですので私はこれで……」

 と言って去っていった。駅員が駆けつけなければいけないほど私はひどい状態で寝ていたのか。私は恥ずかしくなって立ち上がり、荷物の所に行った。何も盗られていないようだ。それにしても中途半端に眠るとひどく体がだるい。早く家に帰って休みたい。時計を見ると私は駅員が来るまで五分間ほど意識がなかったようだ。

 私は荷物の傍に立ったまま目を瞑った。目を閉じたまま立っているとバランスが悪い。無意識に頭が揺れる。壁にでも寄りかかっていないと倒れそうだ。しかし近くに壁はないのでユラユラと半分眠ったまま立っていた。時々、膝がくだけて、ガクンとなり目が覚めるが、またすぐに目を瞑る。

 こめかみのあたりで心臓の鼓動を感じる。近くに鏡がないのでよくわからないが疲れて目が充血しているはずだ。

 新幹線の出発時間が迫ってきた。社員が大量のお土産を抱えて帰ってきた。事務員はなぜか自分のバッグ以外の物は持っていないが、男子アルバイト君が両手に大きな紙袋を持っている。女子事務員は自分の土産をアルバイト君に持たせているのであろう。

 私はホームでウナギ弁当と冷たいビールを買って新幹線に乗り込んだ。事務員が配った指定席のチケットを持って席を探した。行きの時と違って、事務員は作為的に自分の隣が男子アルバイトになるようにしていた。そして社長と営業マンがいっしょに座り、先に帰った酔っぱらいの席はそのまま荷物置き場になった。

 先程悔しがっていたリーダー格のおばちゃんはなぜか私の隣に座っている。あとの二人のおばちゃんは私たちの後ろに並んで座っている。

 後ろのおばちゃんが私の隣のおばちゃんに声をかけた。

「ねえ、ねえ、椅子を反対に向けたらどうかしら?」

 と私たちが座っている席を反対に向けるように言った。私はやかましいおばちゃんたちに囲まれて座るのは気が乗らなかったが、隣のおばちゃんは、愚痴をこぼしたくてしょうがないらしく、私に、

「椅子を回してくれない? わたしこれ良くわかんないのよ」

 と言いながら立ち上がった。私も渋々立ち上がり、椅子の下のペダルを踏んで回転させ、四人掛けの席にした。間もなく私の周囲で悪口大会が始まったが、私は時速三百キロ近くで流れる外の景色を眺めながら、一人黙って缶ビールの蓋を開けた。ああ日本はなんて平和な国なのだろう。


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