愛・世界博 宇宙電波館(その45)



 かなりの時間を無駄にしたので早く行かないとおばちゃんたちが中に入ってしまう。知り合いがいないと私が行っても誰も私が並んでいたと証明する者がいなくなるので中に入れてもらえないかもしれない。

 私が急いで行列に戻ると、おばちゃん三人組は容赦なく私を待たずパビリオンの中へ入ろうとしている所だった。危うく五時間以上も行列に並んだのが無駄になるところだった。

「すいません。待ってください。僕も入ります」

 私はおばちゃんたちを呼び止めた。

「あら、また来たの。もう帰ってこないのかと思っちゃった。さっさと行くわよ」

 おばちゃんたちはそう言うと私にお構いなく急ぎ足で入っていった。私は遅れないように後ろをついていった。

 パビリオンに展示されているものは、古代の生物が原形を保ったまま氷の中から出てきた学術的に貴重といわれている標本だった。しかしそれは骨と皮だけの大きなトカゲの干物が派手な冷凍機能付のショケースに並んでいるだけで、見ていて特に面白い物ではない。展示物だけ見ると「宇宙電波館」の宇宙電波研究資料を展示しているのとたいして印象は変わらない。ただ大金を使ってテレビ等のメディアを駆使して宣伝しているので、客が押しかけるのだ。

 わざわざ長時間並んで見なくてもよかったのではないかと思った。他にも展示物はあったが、昔の生物の歯や角の化石等どれも似たようなものばかりだ。ただ行列に並んで展示品を見たという達成感に誤魔化されてあたかもすばらしい物を見たような勘違いをしてしまうのだ。

 しかし私と同様おばちゃん達も興味が無いらしく、頭に来たようで、

「あんなに並んでこれだけかしら? なんだか時間がもったいないわね」

 と係員に聞こえるように愚痴をこぼしていた。しかし実際、長時間行列に並んだのは私で、おばちゃんは最後の三十分ほどしか並んでいない。こんなことならおばちゃん達が列に戻ったときにすぐ「宇宙電波館」に行っておけばよかった。午後三時を過ぎようとしているので、今から行っても並んでいる途中に集合時間が来てしまうだろう。

 私は展示物を見ながら、昨日の宴会場の廊下で見た鶏の剥製や、骨の標本を思い出した。今日もあの外人はここのレストランにいるのだろうか。このまま東京に帰ってしまうと万博の会期中にはもう来ることが出来ないだろう。「カクギクギスメニア公国宇宙科学館」もあの外人とも永久にサヨナラだ。

 私達はそのパビリオンから出た。

 私はおばちゃん達から解放され、自動販売機で冷たいお茶を買い、一気に飲んだ。あまりに冷たいお茶だったので頭が痛い。頭痛が治まると、もう一本お茶を買い、今度はゆっくり飲んだ。乾ききった体の中に水分が入ると、今度は汗が額から顎まで伝ってボタボタと落ちた。私は疲れ切っていたのだが、じっとしていると眠くなってしまいそうだ。私は一人フラフラとあてもなく会場を歩いた。

 気が付いてみると私の目の前に「宇宙電波館」があるではないか。無意識のうちにここまで歩いてきてしまったのだ。入り口から中を覗いてみると、宇宙電波体験コーナーに通じている通路から人が溢れて展示スペースまで並んでいる。今から並んでもこの調子だと三時間位はかかるだろう。集合時間まであと四十分しかないので諦めるしかない。

 私は集合場所である入場ゲートに向かって歩き始めた。途中で女子事務員と男子アルバイト君が手をつないで歩いているのを見かけたが、すでに二人だけの世界に入り込んでいて、周りが見えなくなっているようだ。二人は遠くから見ている私に気づいていない。私もわざわざ声を掛けたりはしない。事務員とアルバイトがどうなろうと関係ないことだ。

 私は入場ゲート近くの土産物店に入っていった。ここで買い物をする客はほとんどが帰る直前に寄っている。きっと私たちと同じく四時頃の集合時間に違いない。他の社員達も何人か来ていた。おばちゃん三人組はバーゲン品を買い漁るがごとく、キャラクター商品を、

「まーかわいい」

 と言いながら買いもせずにワゴンの中の商品をかきまぜていた。

 私も子供になにか買って帰ろうと思ったが、この前家族で来たときに女房が子供にぬいぐるみを買っていたので特にキャラクター商品を買わなくてもいいだろうと思った。それにおばちゃん達の間に割って入って商品を選ぶ気力も無い。

 私は食い物を買って帰ろうと思った。そこら辺にあった地元名物「手羽先最中」を手に取って店内をうろついていると、あの中近東風のレストランで食べたむせるほど辛い「赤スパゲッティ詰め合わせセット」があるではないか。子供には刺激が強すぎるかもしれないが、女房は食べるだろう。もう一度食ってみたくなったのでそれも買って帰ることにした。

 あまりたくさん買いすぎると帰ってからの私の小遣いがなくなってしまう。でもあと三千円ぐらいは使えるので子供が喜びそうな総理大臣や大統領といった有名人をかたどった「人面プチシュークリーム」を買って集合場所に向かった。


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