愛・世界博 宇宙電波館(その44)



 あと三十分ほどで入館できそうだ、と思っていたら、おばちゃん三人組が戻ってきた。まったく都合がいいタイミングで帰ってきやがる。

「やっぱり、日陰はいいわね。喉渇いたでしょう? 私たちも暑いからエアコンがあるところを探すのが大変だったわ。じゃ、もうどこでも好きな所に行っていいわよ。ご苦労様。助かったわ。」

 本当は列を離れて「宇宙電波館」に行きたいのだが、今まで約五時間半並んで、私は動く気力と、歩く体力を甚だしく消耗していた。しかも今から行ったのでは間に合わないかもしれない。もう少しだからついでに並んで入館しよう。しかし、汗が枯れているにもかかわらず、小便をもよおしてきた。今行っておかないと、入館したら途中で出るわけにもいかないので、おばちゃんたちに、

「あの、ついでだからもう少し並んで、中を見たいんですが、トイレに行きたくなったので行ってきてもいいですか? 」

 と言うと、おばちゃんの一人が、

「私たちに列の番をしろって言うの? 勝手に行けばいいでしょ。入館の順番が来るまでに帰ってきなさいよ。入れなくても私たち知らないから」

 と言っている。散々私を列で待たせておいて、平気で酷いことをよく言うのだ。しかし反論する時間がもったいないので、私は列を離れて急いで歩き始めた。

 トイレを探してとりあえずさっき並んでいたパビリオンの周りを歩いてみた。パビリオンを半周ぐらいすると、ようやくトイレの案内看板があった。看板の矢印をたどって行くと、パビリオンをほぼ一周した所にトイレがあった。最初から反対に向かって歩けば、トイレがすぐにあったのだ。かなり外周が広いパビリオンなので十分近くの時間を無駄にしてしまった。

 もう私の膀胱はかなり限界に近くなっている。女子便所のほうはかなりの長蛇の列になっているが、男子便所は回転率がいいので、五分位並んでいると中に入れた。中に入ると空いたところから一人ずつ、用をたしている人の後ろに並んで待つようになっている。ある一人が終わって出て行ったので、次の人が前進し、その空いているところに私が行って、前の人が終わるのをモジモジしながら待った。

 ところが私が待っている所に限って、なかなか終わらない。両隣の人はどんどん入れ替わっていくのに、なぜ私の前の人はモタモタしているのだ。前の人は下を向いたまま動かない。なかなか出ないようだ。ようやく出し始めたと思ったら途中で止まり、終わりかなと思うとまた出始める。私は足踏みをしながら前の人の様子を見ていた。

 列を代わろうかなと思ったが、安易に列を代わると、その列の人だって早く終わるとは限らないのだ。移動する先々で時間がかかって結局、今並んでいるところで用をたしたほうが早いかもしれない。ようやく前の人がブルブルッと揺れて、ズボンのジッパーを上げる仕草をしたのを確認した。私は助かったと思った。一歩前に前進したところで、母親らしき人が幼い男の子を連れて、急いで入ってきた。その男の子はしきりに、

「おしっこもれちゃうよー」

 と言って泣きべそをかいている。母親らしき人は私の前が空いたところに男の子を連れてきて、

「すいません、お願いします。うちの子供がもれそうなんです。先に行かせてください」

 と懇願したが、私も限界に近いので下手に替わってやって、モタモタされるといつ臨界点を突破してしまうか分からない。かわいそうだが子供のおもらしは世間でも大目に見てくれるだろうが、私が漏らしたのでは話にならないので、その親子を無視して強引に小便器の前に立った。

 騒いでいた男の子は突然動きを止め、表情が緩んだかと思うと、半ズボンの横から黄色い液体が流れはじめた。母親は私のほうを睨むと、子供を連れて男子便所から出て行った。周りではその親子に対して同情の眼差しが送られている。同時に私に対する軽蔑の視線も感じた。

 私はようやく用を足し始めた。しかし炎天下で長時間水分不足だったので、尿道が張り付いていて、思ったようには小便がなかなか出てこない。力をいれて出そうとすると、メリメリと張り付いた尿道が剥がれるように小便が出てくるものだから、非常に痛い。しかし勢いは止まらず。痛い尿道の中を色が濃い液体が通過していく。私は苦痛に顔を歪めてしまった。

 出血はなかったが、尿道炎になりそうだ。我慢も程々にしないといけない。しかし痛みは一時的なもので、用を足し終わった頃には痛みも薄らいでいた。

 私は急いでジッパーを閉めるとおばちゃんたちが並んでいるところに向けて走った。


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