愛・世界博 宇宙電波館(その41) ゲートが開いてから三十分ぐらいでようやく我々も入場した。もうすでに電光掲示板に表示されている人気パビリオンの待ち時 間は五時間以上と出ている。しかし私はそんなパビリオンなんかに興味はない。異常をきたした私の下半身を癒すべく、「宇宙電波館」に 向かうのだ。昨日と違い、万博に慣れた頃だから、今日はみんなが幹事について歩く必要はないぞ。祈るような気持ちでみんなが私から離 れていってくれることを願った。 女子事務員の方を見ると、 「こっちよ」 と男子アルバイト君に指図している。男子アルバイト君は酔っ払いの営業マンが先に帰ってしまい、いっしょに行動する人もい なくなったので、彼は嬉しそうに彼女の後をついて歩き始めた。彼らは年も似通っているので、結構お似合いのカップルに見える。 私は彼女が裸で万博会場をツカツカと歩いていく姿を想像してしまった。昨日の夜のことは忘れないといけない。 社長には相変わらず腰巾着のように営業マンがくっついて仕事の話をしながらどこかに歩いて行ってしまった。私は事務員から 離れ、晴れてこの広い万博会場で自由になったのだ。私は「宇宙電波館」に向かって歩き出そうとしたら、おばちゃん三人組のうち、リー ダー格の事務アルバイトのおばちゃんが後ろから私に声をかけた。 「ちょっと、あんた、幹事でしょ。今朝から見てるとあんた幹事のくせになにもしていないじゃないの、事務員ばかりに引率させ て、少しサボってんじゃないの。それに今日は昨日と違って事務員とあんた、なんだかギクシャクしてるみたいだけど、昨日なにかあった の?」 私はおばちゃんの三面記事的な鋭い洞察力にドキッとした。明らかに私たちの関係を疑っている。しかし疑われても仕方がない ことをしてしまったのも事実だ。とはいっても今、おばちゃんの前で事務員との関係を言う必要はないし、絶対明らかにしてはならないこ とである。 私が弁明もせずに、この場から逃げると、事務員との関係を肯定していると誤解される恐れがある。私はこのままおばちゃんた ちを無視して「宇宙電波館」に向かうことはできない。 「昨日ホテルに帰って寝ようと思ったんですけど、なかなか寝付けなくって……。酒を買ってきて一人でテレビを見ながら飲ん でたんですよ。そうしたら結局、寝たのが朝方になっちゃって……。今日は朝から疲れているんです。彼女が引率してくれて助かっている んですよ」 苦し紛れのウソで誤魔化そうとした。しかしおばちゃんは緩めない。 「でも、あんたたち、密かに同じホテルだったんじゃないの? 知ってるんだから。宴会が終わって社長や私たちはみんなすぐ帰 ったんだけど、あんたたちだけ最後までいたでしょう。会計のあんたが一人で支払いをすればいいのに、わざわざ事務員が一緒にいること ないじゃない。それに、見たんだから、コンビニでお酒を買っているとこ。わたしもコンビニで飲み物を買おうと思ってたら、あんたたち がいたんで、遠くから見てたのよ。そしたら仲良さそうに二人で出てきたじゃない。絶対怪しいわ。いっしょにホテルに帰ったんでしょう ?」 こいつらは何でそこまで私たちのことを観察しているのだ。額から一滴の冷や汗が流れた。 「いや、たまたま入ったコンビニがいっしょだっただけですよ。絶対何もなかったですから。人聞き悪いこと言わないでください 」 おばちゃんは私の言葉を全然聞いていないようだ。おばちゃんはニヤニヤしながら私に尋ねた。 「家族と離れて旅行するなんて滅多にないことだから、チャンスだと思ってんじゃないの? 絶対に内緒にしたげるから、何があ ったか言いなさいよ」 他のおばちゃんも興味津々で聞いている。このおばちゃんたちが内緒にするわけがない。このままでは埒があかないので、話題 をそらして気持ちよく私の前から消えてもらわなければ。 「いやー、本当になにもないですって。それより早く列に並んどかないと、どこにも入れなくなりますよ」 近くのパビリオンでは職員が拡声器を使用して行列に向かい、 「ご来場のお客様にお知らせします。当館では、入館されるお客様の数が本日の予定を上回るおそれがありますので、もうすぐ入 場制限をかけさせていただきます」 と案内している。おばちゃんたちは慌てて、 「あら本当だわ。急ぎましょ」 と言って三人そろって移動を始めた。私はおばちゃんたちと分かれて宇宙電波館のほうへ向かおうとしたら、おばちゃんの一人 が私のところに戻ってきて、 「あんた、なにやってんのよ、幹事なんだから少しぐらい私たちの面倒みなさいよ」 と、私の腕を掴み、他のおばちゃんたちの所にグイグイと引っ張って連れていかれた。女性といってもかなりの力だ。私は勢い に負けて抵抗することもままならず、そのままおばちゃん三人の中に混ざってしまった。 |
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