愛・世界博 宇宙電波館(その40)



  ホームはすでに万博方面の客でごった返していたが、始発の駅であったので何とか社員全員が同じ電車に乗ることが出来た。おばちゃん 達はドアが開き始めると同時に真っ先に車内に突入し、空いた座席に自分たちのハンドバッグや荷物を先に放り投げ、席を確保していた。 先にその席に着いて座ろうとしていた人は、荷物を置かれたものだから、一瞬、席につくのをためらったので、おばちゃんたちはそのすき に怒涛のごとくその空いた席に押し寄せて座った。

 男子アルバイトは事務員が気になっているらしく、彼女のそばに立ってつり革につかまり、時々にやけた顔で、彼女の方を見ている。事 務員も気にしないフリをしていたが、アルバイト君が自分を意識していると気づいているので、窓の外をじっと見ながら、時折フフッと微 笑んだ。

 私はつり革がないところで人間に押され圧迫されていた。周りにも女性が何人かいたので、両手を降ろしたままだと不意に女性の変なと ころに当たり、痴漢に間違われてしまうかもしれないので、荷物を頭の上に置き、両手でその荷物を支えていた。しかしその格好はいくら なんでもおかしいと思い、頭の上の鞄を下に降ろそうと思ったが、肘が隣に立っている気が強そうな女性に当たりそうになった。その女性 がこちらをジロリと睨んだので、結局私は両手をあげたまま、万博の駅に到着するまで同じ格好をしていた。

 車内で私は事務員の方を見た。彼女も私の視線に気づいたらしく、

「ふん」

 と言ってそっぽを向いた。

 やがて電車は万博の駅に到着し、人ごみに流されながら改札を出て、万博の入場ゲートに到着した。昨日と同じく、事務員が入場券を配 り、みんなに言った。

「新幹線の指定席を取ってありますから、昨日みたいに時間が遅れると、指定席に座って帰れなくなります。今日は絶対に四時までにこの 場所へ帰ってきてください。幹事の方、他に何か注意事項はありますか」

 彼女は突然、私に発言を求めた。私が言おうとしていたことを彼女が先に言ったので、特に何も言うことはなく、

「いや……。別に……」

 と口ごもってしまった。

「じゃ、いいですね。これから先は自由ですので。必ず四時に集合してください。遅れたら新幹線のチケットを配れませんから、おいて帰 ります。遅れた人は、ご自由に自腹を切って帰ってください。みんなといっしょに帰ろうという気がある方は絶対に遅れないようにしてく ださい」

 彼女は身も蓋もなく言い放った。しかし、私が作った行程表には多少の余裕を持たせてあるので、必ずしも四時きっかりに集まらなくて もいいようにしてある。しかし彼女がチケットを握っているので、彼女の性格からして、本当に遅れた者を容赦なく放って帰ってしまいそ うだ。

 彼女の一言で一同の間に緊張感が走り、おばちゃんたちもムッとしていたが、多少は腹が立つことを言ったほうが、話に耳を傾けるよう だ。その点では私より事務員のほうが全員に集合時間を周知させるのに適しているのかもしれない。

 しかも一番の足手まといである酔っ払いの営業マンが先に帰ったので幹事としては多少気が楽だ。朝九時の開場までまだ少し時間がある 。しかしすでに列に並んで待っている客は入場ゲートの先が見えないくらいの群集となっている。今日こそはあの「カクギクギスメニア公 国宇宙科学館」に入場して宇宙電波体験コーナーに行くのだ。私は事務員を始め、他の者たちとは絶対に行動をともにしない。とにかくゲ ートを通過したら急いで社員たちから離脱するのだ。

 九時になり入場ゲートが開いた。先頭付近の客の中には、入場と同時に駆け出す者もいる。リュックを背負った小学校低学年ぐらいの女 の子が早くも迷子になって泣いている。ゲートを通過した群集は無秩序に迷走しはじめた。

  我々も巨大な群集に紛れ、入場ゲートに向かってゆっくりと動き始めた。

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