愛・世界博 宇宙電波館(その29)



 ザワザワと盛り上がっていた宴会の音がピタッと止まり、全員がこっちを向いた。アルバイト君はヘラヘラと笑いを浮かべ、

「いやー優勝はやっぱりビールかけっすね」

 とわけの分らないことを言いながら他の席に行って、おばちゃんにちょっかいを出し始めた。宴会の席は、また何事もなかったように、喧騒に包まれた。おばちゃんは、男子アルバイトを気に入っているらしく、

「あら、いやだわ」

 と言いながら喜んでいる。

 結局、ササミのたたきは食えなかった。いったいどんな味だったのだ。

 私はようやく落ち着いて、ササミのたたき以外の鶏肉料理を食べ始めた。

 男ばかりの宴会だと、コンパニオンがいると下ネタでからかったりするのだが、強烈な女性陣がいるものだから、心なしか男性連中がおとなしいようだ。反対におばちゃん連中がコンパニオンとダイエットやエステといった女性が得意な話題で盛り上がりはじめた。

隣の女子事務員が私に向かって話しかけた。

「明日の集合時間と場所をみんなに言っておかないといけませんね。私が言いますから勝手に言っちゃだめですよ。じゃ、トイレに行ってきます」

 彼女は席を立った。

 なぜそんなに私を牽制するのだ。特に私は明日の集合時間と場所を発表するということにこだわっていないので、言いたければいくらでも言わせてやる。彼女がいない間に私が抜け駆けして発表するとでも思っているのだろうか。そこまでして幹事をやりたいのか。私は杯の酒を一気に飲み干した。  間の悪いコンパニオンが帰ってきて、

「さっきはすいませんでした。私ってば、いつも失敗して怒られるんですけど、お客さん、やさしいから良かった」

 と言ってビールを勧めてきたが、いま私が飲んでいるのは日本酒だ。私が杯を持ったら、

「お客さん、そんなに小さいのでいいんですか? 」

 とビールを杯に注ごうとした。私は慌ててガラスのコップに持ち替えたら、

「あら、すいません、お客さん日本酒だったんですね」

 と言ってコップに熱燗を注ごうとするので、まあ、コップでもいいかと思って底のほうに少し残っているビールを飲み干して、コンパニオンのほうへコップを差し出すと、

「あ、ビールなんですね」

 と言ってコンパニオンは熱燗をビールに持ち替えて私のコップに注いだ。

 私はあまりビールが飲みたいわけではなかったので少しだけ飲んでテーブルに置いた。前を見るとコンパニオンがビールを持ったままこちらを見ている。この間の悪さをこのコンパニオンは気が付いているのだろうか。さらに私が何かしゃべろうとすると、偶然なのか、彼女も同時にしゃべりだすものだから、お互いに黙ってしまい、会話が続かない。

 彼女は若くてそこそこきれいなのだけれども、私とリズムが合わない。苦しい沈黙が続いた。彼女はここで席を立ってしまうと負けだとでも思っているのか、なかなか何処へも行こうとしない。

 事務員がトイレから帰ってきた。私は少し安堵した。彼女はコンパニオンを一瞥してから私のほうを見て言った。

「そろそろ明日の予定を皆に言っといたほうがよくないですか?」

 言わなくても、旅行前に配った行程表を見れば一目瞭然だ。しかし、行程表をあらかじめ読んできているものは事務員以外ではあまりいないようだ。私は事務員に言った。

「言っといたほうがいいかもね」

 彼女は立ち上がり、騒がしい宴会の席を遮ってみんなに向かって声を発した。


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