愛・世界博 宇宙電波館(その28) コンパニオンは私のほうを見て、 「すいませんっ。こぼれました。どうしましょうか」 どうしましょうかと言われても、私は困る。しょうがないので、 「新しいの、貰ってきてくれる? 」 とコンパニオンに頼むと、彼女は困ったような表情で、器を持って廊下に出た。廊下から中近東風の店員の声が聞こえる。耳をすませて 聞いていると、材料が余分にないので出来ないというような事を話している。器を持ったままコンパニオンが入ってきて、言った。 「あのー、できないそうです」 なんとかしろよ、と思ったがなんだか文句を言うのも面倒くさい。 「じゃ、いいよ」 コンパニオンはすまなさそうにほかの席に行った。 私は鳥の唐揚げに箸を伸ばして食おうとすると入り口の襖が開いて、店主らしき中年の人物が突然入ってきて、正座をし、深々と頭をさ げてから挨拶を始めた。頭には店員と同じく、方言がたくさん書いてある手拭いを巻いている。 「ようこそ、おいでなされた。どうかゆるりとなされよ。我ら五代続く創業百二十年を数える店であるからして、伝統受け継ぐ匠の技を 堪能されたし。特に自慢するは、シメて間なしの新鮮なる地鶏を使いて調理したササミのたたきである。数に限りがあるゆえ、心して食さ れよ。本日は当店にご来店いただきて、大変感謝しておる」 まだササミのたたきを食っていない者は、店主の挨拶を聞いて、食い始めた。店主がそう言うから旨く感じるのか、しきりに、 「旨いな、これ」 「おいしいわ」 と絶賛している。私はビールに浸されたその料理を見て、ため息をついてしまった。ほかの席に行っている間の悪いコンパニオンがチラ リとこちらを見て、肩をすくめてすまなそうに笑った。 店主は挨拶を済ませると、帰っていった。ここの店員の日本語がおかしい理由が分かったような気がした。 横の事務員はビールに浸かったササミのたたきを見ると、 「まだ一切れ残っているんで、わたしのを分けてあげましょうか」 と私の顔を覗き込んで言った。自分勝手な事務員だが、たまにはやさしいこともあるもんだな。私は遠慮無く好意をうけることにした。 私は事務員に礼を言って、箸を伸ばそうとすると、事務員が自分の箸で先につまんだ。私の箸が彼女の箸に接触した。私は自分の箸を引っ 込めた。彼女は、 「はい、どうぞ食べてください」 と言って彼女の箸でつまんだササミのたたきを私の口に近づけた。この席でそれはまずいと思う。私は彼女が近づけてくる箸をよけた。 私は彼女に向かって、 「いいよ、そんなことしなくても。自分で食べるから」 と頭を横に向けた。 事務員はつまらなそうに箸を降ろしかけたとき、かなり酔いが回った男子アルバイトが横からそのササミのたたきを食ってしまった。 「いやーほんとにこれ旨いっすね」 彼女は思わず叫んだ。 「なにするのよ」 女子事務員は男子アルバイトの顔にコップのビールをぶっ掛けた。 |
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