愛・世界博 宇宙電波館(その27)

 目の前には旨そうな鶏料理が並んでいる。私はササミのたたきを食おうとしたら、間が悪いコンパニオンがビールを勧めるので、箸を置き、一杯注いでもらった。私は腹が減っているのだ。再度箸を持ってササミのたたきを食おうと思ったら、隣のおばちゃんが、熱燗を勧めてくれたので注いでもらった。私はビールより日本酒のほうが好きなので、熱燗を一気に飲むと、再度箸を持ったが、今度は隣の事務員が、

「日本酒が好きなんですか。私、いつもは飲まないんですけど日本酒がおいしそうですね」

 と言ったので、事務員に熱燗を注いだ。私はもう一度、箸を持ってササミのたたきを口元に持っていこうとしたら、男子アルバイトがなぜかこっちに来て、

「いつも営業ごくろうっす。先輩、尊敬してます。今度、飲みに連れて行ってください」

 と言ってビールを勧めるものだから、コップに入っていたビールを半分だけ飲んで、アルバイト君に注いでもらった。

 私はいつになったらササミのたたきを食えるのだ。隣の事務員は、遠慮なしに、バクバクと鶏料理を食っている。アルバイト君はビールのビンを持って、他の社員に注ぎに行った。

 目の前に座っている経験の浅そうな、間が悪いコンパニオンと目が合った。熱燗が入った徳利を持って待ち構えている。私が箸を持とうとすると、すかさず手を伸ばして、私に注ごうとするので、

「君ねえ。僕なんかに構わなくってもいいよ。それより一杯飲んでよ」

 と言って、私の空になった杯をコンパニオンに手渡し、彼女が手に持っていた徳利を私が取って、彼女に注いだ。コンパニオンが、

「あっ、ありがとうございます」

 と言って、呑もうとしたら、隣の女子事務員が、コンパニオンに向かって言った。

「だめです。知らない男の人が使ったおちょこなんか使っちゃ。間接キッスが平気で出来るなんて信じられないです。結婚式のときぐらいしか、そんなこと、許されていないんですよ。不潔だと思わないんですか。あなた、自分のコップを用意してきなさいよ」

 コンパニオンは杯を置いて自分のコップを取りに行った。事務員はコンパニオンが置いていった私の杯の酒を飲み干して、

「あー、意外と日本酒っておいしいですね」

 と言って、空になった杯をテーブルに置いた。

 私は再度、料理に箸をつけようとしたら、間が悪いコンパニオンがガラスのコップを持って帰ってきて、私の前に座った。空になった杯を見て、「あれっ」という表情をしたが、すぐにこっちをじっと見て黙っている。仕方ないので私は箸を置き、彼女に酒を勧めた。近くのビールは誰かが持っていってしまったので、私は熱燗を彼女のコップに注いだ。

 私がコンパニオンに酌をしているところを見て、事務員がコンパニオンに向かって

「客に酒を注いでもらうなんて、あなた仕事を間違えているんじゃないの。接客するほうがお酒に酔っ払ったら、仕事なんか出来ないじゃないのよ」

 その言葉でコンパニオンがコップをテーブルに置こうとするものだから、私の手元が狂い、すこし熱燗がコンパニオンの膝にこぼれた。

「熱っ」

 慌てたコンパニオンは、酒が入ったコップをテーブルの上のビール瓶にぶつけて、ひっくり返して、私が食べようと思っていたササミのたたきが入った器にビールがこぼれた。


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