愛・世界博 宇宙電波館(その21)


 彼女はビクッとして頭を上げ、急に立ち上がり、時計を見て、

「私、寝てましたか? あらもう五時になっちゃったわ。みんな揃ったのかしら。」

 と言って周りを見た。マスカラが取れて彼女の目の周りが多少黒くなっている。それを彼女に言うと化粧直しで時間がかかりそうだ。彼女はみんなに聞こえるように私に向かって言った。

「私達が時間通りにここへ来たときはまだ誰もいなかったですよね。私は待ちくたびれて、寝ちゃったみたいです。なんでみんなが集まる前に起こしてくれなかったんですか? せっかく時間通りに来て待っていたのに、私だけここでサボッっていたみたいで、恥ずかしいです。一時間も遅れたら宴会の時間もずらさないとだめじゃないですか」

 事務員はすばやく携帯電話を取り出して予約を入れている店にかけた。幹事の私が予約した店なので、本当は私が時間の変更を連絡しないといけないのではないかと思ったが、彼女は私の立場なんかはおかまいなしに自分が思っているように行動を起こす。

「あのー、六時から宴会を頼んでいたんですけど、えー、はいそうです。それで、時間に遅れそうなので時間を七時にずらしたいんですけど。えっ? コンパニオン? 誰がコンパニオンなんか頼んだんですか。そんなのキャンセルです……」

 私は慌てて事務員の手から電話をもぎ取った。事務員は叫んだ。

「何するんですかっ」

 私は電話に向かって言った。

「今のは気にしないでください。コンパニオンのキャンセルは無しです。開始時間を一時間だけずらしてください。お願いします。はい……。じゃあ人数はこのままで、時間を七時から二時間、コンパニオンさんも宴会の時間にあわせてもらうってことでお願いします」

 事務員に携帯電話を返すと、事務員は不満そうに電話を受け取り、軽蔑の眼差しで言った。

「男の人って何考えているのかわかりません。何でコンパニオンを呼んだりするんですか。コンパニオンが来たら、どうせ鼻の下を伸ばして、私なんか無視するに決まっています。お金がもったいないとは思わないんですか? 少しぐらいだったら私もビールを注ぎますよ。私たちじゃ不満なんですか? 」

 確かに会社の女性達では不満だ。話をしても文句や悪口ばっかりで、宴会が楽しくないに決まっている。社長もそこら辺の所がよく分かっているので、わざわざ私にコンパニオンを準備するように指示したのだ。私は事務員が言っていることを無視して全員に向かって叫んだ。

「これから万博の駅から、今日新幹線で降りた市内の駅まで行きます。駅に着いたら、それぞれ別々のホテルになりますから、私が皆さんを一旦ホテルまで送ります。それから再度、駅前に集合して、宴会場がある料理屋に行きます。それでは皆さん、ついてきてください」

 事務員は何か言いたそうだったが、私は駅に向かって歩き始めた。事務員は仕方なく私の後ろに続いて歩いていたが、突然、私の横を肩をぶつけながら追い越し、先頭に出て、言った。

「みなさーん、駅はこっちですよ。ついてきてくださいね」

 仕返しのつもりなのか、また私の立場を無視した行動をとり始めた。この性格は今に始まったことではないので、特に腹は立たないし怒るのも面倒くさいので勝手にやらせておこう。

 入場ゲートから万博駅までは普通に歩いて五分ぐらいだが、おばさん三人と酔っ払いの営業マンがめいめいに歩くものだから、改札に全員が揃うまで十分以上かかった。

 駅は万博から帰る客でごったがえしていた。改札を通るとホームに上る狭いエスカレーターの前にはさらに人が溢れかえっていた。階段のほうが若干、人の流れが速いような気がして、エスカレーターは使わず、階段で上ることにした。

 今ぐらいが一番混む時間帯なのであろう。階段を上っていると、プラスチックで出来た尖った飾りがついている土産物の帽子をかぶった子供が目の前にいる。万博で何か面白いものでも見たのか、かなりの興奮状態で私の顔の近くで頭をグルグルと動かし始めた。私の目の近くで、その尖ったプラスチックが動いている。私は背伸びをすると見せかけて、その子供の帽子にわざと手をぶつけて、帽子を落とした。混雑した駅の階段で群集の移動をその子供は止めることは出来なかった。その帽子は群集に踏まれて見えなくなってしまった。

 
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