愛・世界博 宇宙電波館(その20)



  目が覚めてみると、私と彼女を社長が上から覗き込んでいた。私はびっくりして飛び起き、時計を見た。もう四時半近くになっている。寝過ごした。ここはどこだ。どうしたことか下半身の一部が元気になっている。もしかして私は男性としての機能を回復したのかもしれない。さっき横の事務員と変な事になりかけたのが刺激なったのか。しかしそれどころではない。事務員は横で、まだ座ったまま寝ている。社長は私に向かって声をかけた。

「君、いい夢見てたようだね。邪魔して悪いが、集合時間が過ぎているようだが、君たち幹事しか集合場所にいないのはどうしてなんだろう。私たちはもう、置いて行かれたんじゃないかと思っていたよ」

 私は腰を引き、ポケットに手を入れて、何かを探すふりをしながら、立ち上がった。社長は私の股間の辺りを見て、ニヤッとした。辺りを見回すと私と事務員の他には、社長と、社長について行った口のうまい同僚の営業マンがそっぽを向いてカレーくさいゲップをしていた。

 そうだ私は「愛・世界博」に来ているのだ。

 携帯電話が不意に鳴った。酔っ払いの営業マンといっしょにいた男子アルバイトからだ。

「あのー。先輩が飲みすぎちゃって動けないんで、誰か助けに来てください。一人じゃ担げません。ちょっとやめてください。こんなところでズボンを脱がないでくださいよ。いや、ちょっと……。暴れないで……。勘弁してください。誰か助けて……」

 かなりアルバイト君は苦労をしているみたいだ。私は電話の向こうに向かって叫んだ。

「とりあえず、ほったらかしにしてこっちに来い。どうせ独りぼっちになったら、みんなのいるところに来るに決まってる。お前は先輩だと思ってほっとけない気持ちはわかるが、甘やかすのは本人にとって良くない。とにかく無視してこっちに来るんだ」

 「わかりました。ほっといてゲートまで行きます」

 そういって男子アルバイトは電話を切ると私の言ったことを真に受けて、本当に酔っ払いの営業マンをほったらかしにして集合場所にやってきた。

 一方、ほったらかしにされた営業マンは我に返ったのか、一応ズボンを穿き、チャックを全開でヨタヨタと真っ赤な顔で男子アルバイトを追って集合場所にやって来た。これで自分を含めて六人だ。まだ事務員は寝ている。よだれが口元から落ちそうだが、絶妙のタイミングでよだれをすすっている。彼女が起きるとやかましいのでもう少し寝ていろ。そのうち起こしてやる。

 おばさん連中三人も、さも遅れて当然という堂々とした態度で集合場所にやってきた。遅れた理由を聞いても、どうせ、集合時間の決め方が悪いとか、時間を聞いていないだとか、結局、幹事のせいにするに決まっている。だから私は彼女たちに遅れた理由を聞かないことにした。

 社長が事務員の肩を叩いて言った。

「君もそろそろ起きないとね」

 体育座りで居眠りをしていた女子事務員がむくりと顔を上げ、目を覚ました。

「あのー。ここどこですか。あっ、集合時間、あれっ、ここは集合場所じゃないですか。よかった」

 と言って、また膝に頭をのせて目を瞑った。

 社長は私のほうを見ながら、

「君のアシスタントを起こしてやらないと宴会場に行けないよ」

 こいつは私のアシスタントなんかじゃない。ただのおせっかいだ。社長も間違わないでくれ。集合場所に集まった社員たちは退屈そうに彼女が起きるのを待っている。

 しょうがないので私は彼女の肩を揺すった。


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