愛・世界博 宇宙電波館(その14)


「並んでみますか? 」


 と彼女は言いながら、私の腕を掴んで強引に中に入って行った。この近寄りがたい雰囲気に彼女は気づいていないのか。彼女と私が列に並んだときスタッフがすぐにやってきて彼女に向かって説明を始めた。


「この宇宙電波体験コーナーは女性にはホルモンのバランスを崩す可能性がありまして、当コーナーでは女性の方には入場をご遠慮していただいております。大変失礼だとは思いますが健康に変調をきたす前にこの場所から出られたほうがよろしいかと思います」


 彼女は私の方を見て、


 「ここの人こんなこと言ってますよ。あらやだ本当に男しか並んでないわ。気持ち悪いから私、ここから出ます」


 私はしめたと思って、


 「僕はついでだからここに並んでみるよ。君は好きなところに行って見学してくればいいじゃないか」


 「ひどいです。私、一人じゃ嫌です。自分だけ、ずるいです。それにおなかもすいたし。何か食べにいきたいです」


 「君、さっきおなかいっぱいだって言ったじゃないか。それに太っちゃ困るって……」


 「そんなこと他の人の前で言わないでください。恥ずかしいじゃないですか。さあ行きますよ。こっちです」


 彼女はまた私の腕を掴むと、「カクギクギスメニア公国宇宙科学館」の外に出た。彼女は振り返って。


 「こんなとこ二度と来ませんから。馬鹿にしてるわよ、まったく」


 ちきしょう、なんで私がこいつに振り回されなければならないのだ。今すぐにでも彼女の手を振りほどき「宇宙電波体験コーナー」に入りたい。しかしあまり強引にすると、かえって怪しまれる。私も腹が減ってきたので飯ぐらいは付き合ってやろうかと思った。


 私と女子事務員は暫く会場内を歩いたが、どこで飯を食うか、なかなか決まらない。彼女はなまじっか万博のことを研究して来ているものだから、かえってよけいに迷っているみたいだった。私は適当に中近東方面のパビリオン近くにあるレストランを指差して、


 「あのレストランがいいんじゃない?エスニックな感じで……」


 彼女も疲れた表情で、判断力が鈍っているみたいだ。なげやりに応えた。


 「えー。あんなのがいいんですか? おいしいでしょうか? でもそうですね、食べてみないとわかんないから、あそこでいいです」


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