愛・世界博 宇宙電波館(その13)


  私は入り口で止まったまま彼女の行動を観察した。彼女はこちらを振り向いて、


「どうしたんですか。来ないんですか。こっちは涼しいですよ。早く来てください」


  と大声で叫ぶと、数少ない宇宙電波館の入館者のほとんどが振り返り、入館しようとしていたリュックを背負った男性客はクルリと向きを変えて、どこかへ行ってしまった。私は仕方なく、彼女の後について入っていった。


  女子事務員は中の展示物を興味深げに見始めた。こんなのが面白いのだろうか。彼女は熱心に説明を読んでいる。私は彼女の後ろで「宇宙電波体験コーナー」がある入り口を探した。すると確かに見覚えのある別館の入り口を見つけた。彼女さえいなければあのドアの向こうにある天国に行けるのに。しかも女性が一人いるというだけで、入りそびれて、あの入り口のドアの前でこちらをチラチラと見ながら行ったり来たりしている男性がいる。私は彼女に聞いてみた。


「ねえ、おもしろい?」


  彼女はこちらを向いてニコリと微笑み、


「全然、何を書いてあるのか、理解できないです。でも勉強になりそうじゃないですか。こういう興味が無いことでも、役に立つことがあるかもしれないし……」


 と言って、彼女の視線がある一点で止まった。


「あそこに別館入り口って書いてありますよ。行ってみませんか?」


「いや、僕は……」


  と私が彼女にその場所だけは知られては困ると思ったので、言葉を濁しているとやはり彼女はスタスタと勝手に別館入り口のドアの前に行き、こちらを振り返って、


「何があるか、面白そうだから、行ってみませんか」


  入り口の近くを行ったり来たりしていた男性は熱心にほかの展示物を熱心に見るフリをしはじめた。彼女はドアを半分開けて中の様子を見て言った。


「なんだかここも行列が出来てますよ。早く来てください」


   私は近づいて彼女に続いて中をのぞいてみた。静かな男ばかりの列に突然、女の声がしたものだから、列に並んでいる者は一斉にこちらを見ていた。この前来た時よりは人数が増えて、約百人弱ぐらいいるようだ。列が折り重なって三列になっている。多分、一度ここに迷い込んで味を占めた者達で徐々に人数が増えているのであろう。この分じゃ今から並んでも体験コーナーにたどり着くまで二時間以上かかるかもしれない。


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