愛・世界博 宇宙電波館(その12)


  彼女は言った。


  「社長と一緒にインド料理のお店に入ったんです。社長と営業の先輩は食べもしないのにメニューに書いてある物を片っ端からたのんで、次から次へといっぱい料理が来たんです。 私、おいしそうな物だけ少し食べました。でも食べてるそばからテーブルに乗らないぐらいの料理が来たんです。 私は見るだけでおなかがいっぱいになっちゃって、社長に言ったんです。誰がこんなに食べるんですかって。そしたらみんなで食べなきゃ無くならないよって、私にもっと食べろって言うんです。私、気付いたんです。私が太り気味なのは食べ過ぎが原因だって事に。社長にはもう食べられませんって言ってお店を出てきちゃいました」


  彼女は見たところ太っているようには見えないので、


「変な事、気にしてるんだね。君は十分プロポーションいいじゃないか」


「いいです、気を遣ってくれなくても。どうせ私太っていますから」


「違うよ。君は太ってなんかいない。気にする必要無いよ。それにしてもなんで僕がここにいるって分ったの」


「偶然ですよ。私も一人ぼっちになっちゃって・・。歩いてたら、たまたまここに来たんです。そしたら見覚えがある人がこの気持ち悪い建物の前にいたんです。このガクガクなんとかってパビリオンに何かあるんですか」


  私がこの社員旅行を企画した目的はここに来るということだけだといっても過言ではない。しかしこのパビリオンの中で何が行われているかは社員旅行で来た者のうち私以外に知っている必要は無いし、知られても困る。私は女子事務員に言った。


「別にここに用事がある訳じゃないんだ。僕もみんなと別れて歩いていたらたまたまここに来ただけだよ。でもせっかく来たんだから入ってみようかなと思っていたところさ。君もこんな所に僕なんかと一緒にいないで、見たいパビリオンがあるだろ」


「見たいパビリオンはたくさんありますけど、どれも行列が出来ていて、時間がかかりそうだし、面倒くさいし、それに一人で並んだりするのは恥ずかしいんです。もし一人で行列に並んでいて、トイレに行きたくなったらどうするんですか。列から離れるともう一回最初から並ばなくちゃいけないでしょう。人気のあるパビリオンなんか五時間ぐらい並んでいなくちゃいけないし・・。絶対、一人で行動する所じゃないです、ここは」


  このままではこの女子事務員のお守りをしなくちゃいけなくなりそうだ。宇宙電波館の入り口を目前にして興味の無いほかのパビリオンに長時間並んで時間がなくなってしまう可能性が高い。何とかして追っ払わなくては。


「アルバイトのおばちゃんたちだって人気パビリオンに並んでいるだろ。いっしょに並ばせてもらえばいいじゃないか。」


「なんでそんなこと言うんですか。私、あの人たち嫌いなんです。うるさくて、自分勝手で、ケチだし。いっしょにいても腹が立つだけで全然いいことないです。だけど私、本当は一人でいるのはいやなんです。社長と営業の先輩もあんなに食べきれないほど料理を頼まなかったら、別についていってもよかったんですけど、太っちゃうのもいやだし・・。だからこのガクガクなんとかってパビリオンでもいいです。涼しそうだから一緒に入ります」


  一緒に入るといったって、さっきこんなところ楽しくないと言っていただろ。勝手に決めるなよ。せっかく一人で心おきなく宇宙電波体験コーナーに行けると思ったのに。と私が考えている間に彼女はスタスタと宇宙電波館へ入っていった。


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