愛・世界博 宇宙電波館(その10)


  ここはなんとか社員達を彼女にまかせて行方をくらまそう。私は女子事務員に言った。


「僕は知り合いに頼まれているおみやげを買わないといけないから、君がみんなを引っ張っていってくれないか。僕より会場のことをよく知っているみたいだし」


「えー、そんなことないです。それに今は自由時間なんだから誰について行っても自由じゃないですか。それにおみやげだって明日ここにもう一回来るんだから、明日買えばいいじゃないですか」


  しかたないので、暫く歩いてみることにした。会場は広いので、歩くにつれて興味のある場所を見つけて、脱落していく者がいるに違いない。しかも日頃よく歩いている私のような営業社員以外は運動不足に決まっているので、歩くのが面倒くさくなって、すぐに脱落するだろう。


  まず同僚の営業社員と男子アルバイトの二人が世界各国のビールや酒が置いてある売店を見つけて、フラフラと吸い込まれるように引き寄せられて列から離脱した。アルバイトのおばさん連中三人も人気がある五時間待ちのパビリオンの列に並んだ。あとは社長と社長にべったりとくっついて離れない口のうまいもう一人の営業社員と女子事務員と私だけだ。


  今度は私が離脱して宇宙電波館へ行く番だ。私は社長に向かって、言った。


「ちょっとトイレに行ってきます。せっかく万博に来たんですから私を待っていただかなくても結構ですよ。社長は好きなところを見学しててください」


「そうかね、じゃ、飯でも食ってくるかな。君たちにも何か飲み物でもごちそうしてあげよう」


  社長はそう言って社員二人を連れて、雑踏の中を歩き始めた。


  私はトイレの矢印の方向に一旦向かったが、三人が見えなくなったところで方向を変え、目的の宇宙電波館に向かって歩いていった。


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  © 2005 田中スコップ 路上のゴム手
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