愛・世界博 宇宙電波館(その9)


  万博会場のゲート前で全員を集めて、あらかじめ購入していたチケットを配布しようと思って鞄の中からチケットを取り出したら、すぐに女子事務員が寄ってきて、私の手からチケットをもぎ取り、全員に配り始めた。


  そして私は事務員を横目で見ながら全員に向かって、


  「ここからは自由時間にしますので、いま配っているチケット持ってあそこのゲートから入ってください。集合時間は午後四時です。遅れないようにしてくださいね。今、皆さんがいるこの場所を集合場所にしますので、ここをよく覚えておいてください。全員が集合してから一旦市内に戻って、宴会場を六時に予約してありますので、そこで夕食になります。絶対に集合時間に遅れないようにしてください。市内に戻ったときに皆さんが泊まるホテルの場所を説明します。繰り返します。この場所に四時に集合してください」


  万博という場所の物珍しさでみんなキョロキョロして、あまり人の話を聞いていないようだ。それぞれの携帯電話の番号も私の電話のメモリーに入っているので、時間通り集まらなかったら電話すればいいや。


  チケットを配りながら事務員も大声で言った。


「四時ですよ。四時にここに集合です。忘れないでください。明日のチケットは別にあり ますので明日配布します」


  さっきチケットを私からふんだくったときに、明日の分まで持っていったみたいだ。


  ゲート前の行列に全員が並んだ。テロの影響かどうかは知らないがやたらチェックが厳しく、同僚の営業社員の鞄から缶ビールが発見され、会場内に持ち込む前に没収されてしまった。そいつは警備員に向かってしばらく文句を言っていたがゲートの後ろに並んでいる他の社員とさらにその後ろに並んでいる入場者の殺気だった視線を感じ、観念して缶ビールを諦めた。


  ゲートを通過してから、悪口で盛り上がっていたおばさん連中に呼び止められた。


「あんた、集合時間は何時よ。幹事のくせに集合時間も決めてないなんて、みんなまとまらないわよ。しっかりしてよ、まったく」


  私は呆気にとられて、


「へ?、さっき皆さんの前で言いましたよ。行程表にも書いてるし」


「そんなの聞いてないわよ。ねえ」


  と言って周りの者に同意を求めると、他のおばさんも頷いて、


「そうよそうよ、聞いてないわよ。みんな迷子になっちゃうわよ」


  本当に私がみんなに伝えているのか自信が無くなってしまった。たしか言ったはずだ。聞いてないのはこいつらだ、と思う。ほかにも聞いていない者がいるかもしれないので文句を言われる前にもう一回言っとこう。


「みなさーん。集合時間は四時ですよー。四時にゲートを出て、さっきいた場所に集合して・・・・」


  私が全部言わないうちに先程ビールを没収された営業社員が言った。


「てめえ、何度もおんなじことを言ってんじゃねーぞ。それより酒だ、酒だ、酒はどこに売ってんだよ」


  会場内の売店かレストランに行って自分で探せ。俺はこれから宇宙電波館に行くんだ。ケツの青いガキじゃあるまいし、てめえの面倒はてめえで見やがれ。この酔っぱらいが。


  言った言わないで、女子事務員とおばさん連中が一触即発の状態で火花をちらしはじめた。ここはひとつみんなを解散させないと、つかみ合いのケンカになりそうだ。


「みなさん、ここからは本当に自由ですので、どうぞお好きなところへ行って食事するなり、パビリオンを見るなり一日楽しく過ごしましょう」


  私は一刻も早く宇宙電波館に行きたいんだ。私は一人、宇宙電波館がある方向に向かって歩き始めた。


  ところが私が行く方向にみんながゾロゾロついて来るではないか。あの女子事務員が旗を持って私の後ろを歩くものだから、みんなは特にどこにも行く当てが無いので、しょうがないから、つられてついてきているのだ。幹事だからといって、万博に精通しているわけでもなく、ついて来られても困る。頼むから早くどっかに行ってくれ。


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