愛・世界博 宇宙電波館(その6) 


  私の住んでいるところは都内のマンションで、万博会場までは乗り継ぎの時間を入れても約三時間ぐらいだ。

 勤めている会社は輸入品の買い付けと卸しをしていて、アルバイトと社長を入れても十名足らずの小さな会社だ。社長が買い付けをして きて、私を含めた営業社員三名が営業をしている。輸入品を扱う都内の雑貨店舗を回って注文をとってくるのが私の主な仕事だ。最近では 私の会社から仕入れた輸入雑貨が好評で固定客も増えて営業も大分楽になってきた。しかし気を抜いているとすぐに飽きられてしまうので 、常に新しいものも提案するようにしている。

 ある日、社長が社員を集めて言った。

「私が会社を立ち上げてからはや五年が経ちました。一時は大変苦しい時期もありましたが、今は順調に売り上げを伸ばしています。それ もみんなが一丸となってがんばってくれたお蔭です。皆さん本当にありがとう……」

 と少し涙目で声を詰まらせた。本当に感謝しているなら給料を上げてくれと思ったが、周りを見るとみんな神妙に聞いている。それどこ ろか社長につられてハンカチで目をぬぐっている女子事務員もいる。社長は続けて言った。

「まだまだ会社も決して楽な状況になったわけではありませんが、皆さんの労をねぎらい、社員同士の親睦を深めるという意味で、今年は 社員旅行を行いたいと思います。そこで、どこに行くか皆さんの希望を聞きたいと思っています」

 と言ったところで私と社長の目が合ってしまった。社長は私に向かって、

「君、どこがいいと思うかね」

 私は不意をつかれて言ったことは

「今行くとしたら、やはり愛・世界博がいいと思います。今行っとかないと万博が終わってしまいますよ。絶対万博に行くべきです」

 私は普段、営業マンのくせに人前で話すのが苦手なのだが、頭の奥に「宇宙電波照射中」の点滅が蘇ってきて、なんでこんなに熱弁をふ るっているのか不思議なくらい、周りの人間に向かって万博に行くことを勧めている自分がいた。誰かが止めてくれないとずっとしゃべり 続けてしまうぐらい万博の説明をした。すでに閉会まであと一ヶ月足らずになっている。早く行かないともう二度と宇宙電波館に行けなく なってしまう。

 社長は言った。

「君がそんなに言うんだったら、万博に行ってみようじゃないか。誰か異論はないかね」

 誰も黙ったままだ。私の異常なまでの熱意が伝わって、社長を含め誰も文句を言える状況ではなかった。社長は私に向かって言った。

「じゃあ、君が幹事をやってくれ。頼んだよ。みんなもそれでいいね」

 私は何の躊躇も無く幹事を引き受けた。ああ、この性的不能者になりつつある自分があの圧倒的快感を再び体験できるなんて。しかも幹 事になった以上、有無も言わせず万博での自由時間をたっぷり取るスケジュールを組むことだってできる。


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