愛・世界博 宇宙電波館(その2) 



  妻は言った。

「なんだか気味が悪いわ。あなたもう出ましょうよ」

「いいじゃないか。涼しいんだし、もう少し居ても」

「わたし、耐えられないから、他のパビリオンに行くわ。あなたも飽きたら携帯に電話してね。どこかで合流しましょう」

  と言って子供を連れて出て行ってしまった。

 宇宙電波館にポツンと一人残されて、展示物をゆっくり見ていると別館と思われる場所に通じているドアを見つけた。私はそのドアを開けて中を見た。そこは薄暗い通路になっていて、男ばかりの行列ができていた。通路の壁には進行方向に向かって矢印があり、「宇宙電波体験コーナー」と張り紙がしてある。その張り紙の下には小さな字で、

 「この宇宙電波体験コーナーは当館の屋上に取り付けられたアンテナによって人体に有益な電波だけを集めて、ご来場の皆様にすばらしい宇宙電波の世界を体験していただける、世界でも始めての画期的な試みでございます」

 と、解説がマジックで手書きしてあった。いかにも低予算のパビリオンらしい演出だなと思ってニヤリと笑ってしまった。しかしその通路は換気が悪いせいなのか饐えた臭いがこもっている。行列をよく見てみると万博に来た観客だけではなく、他のパビリオンの制服を着た男性スタッフや万博のマスコットの着ぐるみを着たまま並んでいる者もいる。おまえら仕事中にこんなとこに来てサボってんじゃねえぞ。


 行列に並んでいるものは誰も黙っていた。専属の掃除のおばちゃんだけがバケツとモップを持って忙しそうにその部屋を出たり入ったりしている。人気がないパビリオンなので、行列といっても三十人ぐらいしか並んでいない。妻と子供は他のパビリオンで楽しくやっているのだろう。私は宇宙電波というものがどんなものか冷やかしのつもりで並んでみることにした。


 私は列の最後尾についた。私が列に並んですぐに家族連れが迷い込んできた。すると宇宙電波館のスタッフが飛んできて、この体験コーナーは女性にはホルモンのバランスを崩す可能性があり、未成年には今後の発育に影響を及ぼす可能性があるので、ご主人だけが体験できると説明していた。その家族はつまらなそうに全員出て行った。そんな注意事項は最初から通路に入る前にどこかに掲示しとけばいいのに。いちいちスタッフが行って説明していたらきりがないだろ、と思ったが、こんなに閑散としたパビリオンではスタッフも暇をもてあましていそうなので、居眠り防止のためにこうやって説明に来ているのかもしれない。



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