「黙祷」 (その1)


 ざっと見たところ一万人以上は収容できるかなり広い会場にやってきた。会場内には日本全国から来た沢山の人がいてザワザワと騒がしい。年末の寒い時期であるが、外の寒さとは裏腹に中は熱気に包まれている。

 今は「商工青年団連絡会議所」全国大会の開会前である。この会は自営業者の若手で組織されていて自分で起業した者より二代目三代目と事業を引き継いでやっている者が圧倒的に多い。そのため新たに何かをやろうという意欲がある者は少なく、歴史だけは古いがマンネリ化した組織になっている。

 会員のほとんどが男性で女性の姿はイベント会社と事務局のスタッフ以外ではあまり見かけない。客はみんな一様にスーツ姿であるが、たまに破れたジーパンを穿いて金属製のアクセサリーをジャラジャラいわせながら目立っている人もいる。地区によってはお揃いのハッピを着て会場入り口のホールで地元特産品の宣伝をしていてまるでお祭りのようだ。

 私は入り口の受付で渡された式典用のパンフレットを小脇に抱えてその会場に入っていった。場内には膨大な数のパイプ椅子が整然と並べられている。私はこれだけの数のパイプ椅子がよく集まるものだなと感心した。

 入り口から見ると前方のステージが小さく見える。ステージ上ではまだスタッフジャンパーを着た人たちが慌しく動き回っている。

 どこで誰がしゃべっているのかここからではよくわからないが

「あーあーテステス、ワンツー、ワンツー」

 とマイクの音量調節をしている。ボリュームが上がったり下がったりで、時々「ピー」というハウリング音が混じって耳が痛い。

 ステージの模様は横の巨大スクリーンで映されていて難しそうな顔で鼻をほじりながら指示を出しているスタッフの姿が映っていた。スクリーンテストでもしているのであろうか、まだ開会前とはいえ準備の最中を見せられても見苦しい気がする。しかしそれ以前に会場のセッティングは客が集まる前には終わらせておかなければいけないと思う。

 私の周りからは、やれ段取りが悪いだの会場のレイアウトが今ひとつだのとてんでに勝手な事を言う声が聞こえてくる。会場を借りる日程の折り合いがつかなかったか予算の都合で会場のレンタル料を一日分節約したのであろうか、これだけの会場を当日準備するという綱渡りのような日程を組んでいるようだ。憔悴して目の下に隈ができてボーッと立っているだけのスタッフもいる。準備の担当者達は昨日から寝ていないのだろう。
 (2008.06.30)

 
つづく
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