「エレベーター」(その2) 



 暫くの時間が経過した後エレベーターは段々と減速を始めた。そして天井に向かい重力が生じてきた。地球の中心を過ぎたのだろうか。僕はエレベーターの天井に立ち、買い物袋から出てしまった商品を拾った。

 それにしてもこんなに地球の奥深くまで来たのにマグマでエレベーターは溶けないのだろうか。エレベーター内部の気温は明らかに上昇していてかなり暑い。僕はエレベーターの壁を触ってみた。やはり熱くなっている。しかしまだ耐えられないほどの温度ではない。このエレベータは耐熱の構造になっているのだろうか。

 あるときガタンとエレベーターが揺れた。どこかにぶつかったのだろうか。とうとう来る時がきたか。もうおしまいだと思ったが成り行きに身を任せているほかはない。どうやら地球の反対側に突き抜けたようだ。

 エレベーターは突き抜けたショックにより数回空中で回転したが奇跡的に同じ場所に戻ってまた落下し始めた。中にいる僕は壁で数回体を打ったがなんとか無事だった。しかし空中で回転したせいでエレベーターの向きが上下逆さまになってしまったようだ。本来ならば天井を下にして落下するべきはずなのだが床が下になっている。

 空気の抵抗や物体の摩擦力を考えると完全に地球を突き抜ける前にどこかでスピードが落ちるはずである。絶対に反対側へ出られるわけがないと思ったのだが、外の様子がわからないので本当に地球を突き抜けたのかどうかも疑問だ。もしかすると地球内部の圧力かなにかで押し上げられたのかもしれない。

 またエレベーターは自由落下を始め無重力状態になった。そして地球の中心とおぼしき地点を過ぎ減速を始めると僕はまた天井に立って散乱した商品を拾い集めた。

 エレベーターのスピードが段々と遅くなり、やがて止まった。

 扉が開くとそこはレストランのあるデパートの最上階であった。エレベーターに乗りこんだ時と同じ景色だ。デパートは依然として賑わっている。エレベーターの前には数人の客が待っていた。

 僕は床に置いた紙袋を持ちエレベーターの外に出た。扉からは塗料が焼けたような焦げ臭い匂いがする。外で待っていた人は上下逆さまになったエレベーターを見て首をかしげていた。

 僕はエスカレーターに乗って下に降りた。


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© 2007 田中スコップ 路上のゴム手
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