愛・世界博 宇宙電波館(その74)


 「愛・世界博」が終了して数日後、会社の前に一台の四トントラックがやってきた。

 そのトラックは宇宙電波の受信装置と照射装置のセットを運んできたのだった。荷台のゲートが開くと中には木製パレットに載せられてシートがかけてある大きめの荷物が三個と、段ボール箱が数個置いてあった。

 社員達はトラックを取り囲んでその荷物を興味深げに見ている。

 トラックの運転手は誰一人動こうとしない社員達のほうを見渡して困った表情をした。

「あの、すいませんが荷物が少々大きいのでリフトか何かありませんか」

 腕組みをしていた社長と運転手の目が合った。社長は辺りをキョロキョロと見回すと男子アルバイトを見つけた。

「おい、フォークリフトを持って来い」

 少し時間を置いて男子アルバイトは社長に向かって言った。

「ちょっとフォークが調子悪いんですが」

 社長は少し訝しげな表情をした。

「じゃあバラして手で下ろせよ。それが嫌ならリフトを持って来い。少々調子悪くったって動きゃいいんだ、動きゃ」

 社長はなぜか社内で一番命令しやすい男子アルバイトには厳しい。男子アルバイトはしぶしぶとタオルで口を覆い、頭の後ろでくくった。そして倉庫のそばに止めてあるフォークリフトに乗った。 

 エンジンをかけようとセルモーターを回すがなかなかかからない。バッテリーが上がりそうになり、もうエンジンがかからないかなと諦めかけた頃突然エンジンが回り始め、白煙がモクモクと発生しはじめた。

 本当にエンジンの調子が悪そうだ。

「修理に出せよ」

 と社長が呟いた。しかしガラガラというエンジンからの異音にかき消されて誰もその呟きを聞いてはいなかった。社長が外車を売ればフォークリフトの新車ぐらい買えるのではないだろうか。

 周りの社員達も自分のハンカチで鼻と口を覆っている。煙幕のように排気ガスが漂い、目が痛くて涙が出てくる。男子アルバイトとトラックの運転手が咳をしながらなんとかパレットを下ろし、トラックは逃げるように帰っていった。

 荷物のカバーをはずしてみるとそれはバラバラに分解されていて組み立て前のユニットバスのように梱包されたパネルが何枚も重なっている。全てのパネルの裏側には番号が書いてあり、説明書に従ってそのパネルを組み立てて作るようになっている。意外と簡単に設置できそうだ。

 しかし社長は何のためにこんな物を買ったりするのだろう。こんな無駄遣いをするよりもう少し従業員の給料のことも考えて欲しいものである。

 あの「宇宙電波館」の屋上に取り付けられていた長いアンテナもいっしょに来るのかと思っていた。しかしあのアンテナはただのダミーで、本物の受信用のアンテナはもっと小さくて中華鍋のような形だった。その他の電子機器の部品はクッション材にくるまれてダンボールに入っている。

 中の構造が分からないように分解不可能なブラックボックスとなっている部品もあった。電波照射用アンテナはラジオのアンテナのように引っ張ると伸びるようになっている。いったいどういう仕組みなのかわからないが多分中身の構造を聞いても私には理解できないだろう。

 それからその物体は窮屈な倉庫の一角を占めて、ほかの商品の入出荷の邪魔になっていた。倉庫係のおばちゃんはその物体の横を通るたびに

「なんだか邪魔よね」

 が口癖になっていた。



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