愛・世界博 宇宙電波館(その31)


 私はあのコンパニオンのせいであまりうまい酒が飲めなかったので、ホテルに帰ってテレビでも見な がら地酒を一人で飲みたいと思った。そして今日の昼間に電車の中で起こった怪しい雰囲気を引きずっ て、事務員との関係をこれ以上おかしなものにしないために、横を歩いている事務員とは別行動にしな いといけない。私は彼女に言った。

「僕は酒を買って帰るから、君は一人で先にホテルに帰ってくれ」

 彼女は少しふくれた表情をして言った。

「か弱い女の子に危険な夜道を一人で歩いて帰れっていうんですか。私が襲われたら誰が責任取ってく れるんですか」

 はっきり言って刃物等を持った暴漢に襲われても、私には助ける度胸も腕力もない。彼女のボディガ ードをするどころか反対に私が助けて欲しいぐらいだ。

「別に歩いて帰らなくてもタクシーで帰ればいいじゃない。それにここからホテルまでは明るい通りば かりだし……」

 事務員は私が言い終わらないうちに口を挟んだ。

「タクシー代がもったいないじゃないですか。いっしょに乗って割り勘ならいいですけど。私も宴会の とき幹事が酔っ払っちゃたらいけないと思って、あんまりお酒を飲んでいないんです。飲み足りないか ら、私もお酒を買って帰ります。酒屋さんに連れて行ってください」

 彼女の近寄りがたい雰囲気で、誰も酒を注ぎに来なかっただけじゃないのか。しかも彼女は自意識が 強そうだから、誰かが注いでやらないと自分で注ぐようなことはしないので十分に酒を飲んでいないよ うだった。

 私は彼女と一緒に酒を買ってホテルに帰ると自制心が効かなくなってしまいそうだ。妻の顔が頭に浮 かんだ。私は断じて女子事務員とは怪しい関係になりはしない。意思を強く持てばいいのだ。しょうが ないのでホテルのエレベーターまではつきあってやろう。

 社長やほかの社員はどこに行ったのだろう。博覧会場は思った以上に広くて、かなり歩いたので疲れ ているのかもしれない。宴会の最中にどこかで二次会をやろうという声は上がっていなかったので、き っとみんなホテルに帰って休んでいるのだろう。

 私たちは酒を売っているコンビニを見つけたので、いっしょに店に入ってそれぞれ別々に飲みたい酒 とおつまみを買った。それから私たちは宿泊先のビジネスホテルにナイロン袋をぶら下げて入っていっ た。フロントで鍵を受け取るといっしょにエレベーターに乗った。

 私は三階なのでエレベーターの三のボタンを押したが、彼女は二階のボタンを押そうとしない。どう したんだろうと思っているうちに三階についてしまった。私は事務員に、

「じゃ、お休み」

 と言ってエレベーターを降りると、彼女もついて降りて私の後ろから声をかけた。

「せっかくお酒を買ったのに、一緒に飲まないんですか」

 このまま彼女を部屋に入れるとまずいことになってしまいそうだ。私は部屋に向かって歩き始めたが 、彼女は私の後ろをついてきている。部屋につくまでにどうすればいいのか考えたが、あっという間に 部屋の前まで到着してしまった。私は部屋に入る前に振り向いて彼女に向かって言った。

「まずいよ、部屋にいっしょに入るのは」

 私はドアのほうに向きなおして部屋の鍵を開けようとした。廊下は薄暗く、私は少し動揺しているせ いか、鍵穴になかなか鍵が入らない。  


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