「テニスボール」 コンクリートの壁に向かって、僕はサッカーボールを蹴っていた。同じ中学校に通う女友達が一人、退屈そうにしゃがんでいる。僕が何かをしていると、いつもやって来て、特に邪魔をすることもなく、近くにいる。たまにそばに居ないとなんだか淋しいので、来てくれると安心する。 しばらくボールを蹴っていると、黒いスーツを着て黒いサングラスをかけた怪しい男が自転車に乗ってやってきた。自転車の前のカゴにはテニスボールのようなものがたくさん入っている。 僕達の横で自転車を止めると、こちらを向いて手招きをした。僕は一瞬、身構えたが、無邪気な彼女は近寄って行った。男は自転車のカゴの中からボールを取り出して彼女に渡した。彼女はおじぎをしてボールを受け取り、こっちに持ってきた。 男は自転車を思いっきりこいで去っていった。 ボールを持ってみると普通のテニスボールよりは少し重く、表面には「危険、核兵器」と書かれたシールが貼ってある。僕たちは顔を見合わせて笑った。 僕は近くの木の枝に掛けていた学生服を羽織って彼女に言った。 「アイスでも食べに行こうか」 彼女は嬉しそうに頷いた。 「それにしても、どう見てもテニスボールだよな」 僕はそのボールを壁に向かって投げた。 ボールが壁に当たった瞬間、僕達は消滅した。 © 2005 田中スコップ もどる |
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