「回転落下」



  俺の乗ったロケットは順調に高度を上げ、もうすぐ地上三万六千キロメートルの静止軌道に乗ろうとしている。久々の単独飛行であったが緊張感は次第に和らいでいった。


 地球は何度見てもきれいだ。俺は宇宙服の中で大きく息を吸った。目の前にある青い惑星の表面で、ちっぽけな人間同士が争ったりするのは何てバカバカしい事なのだろう。俺は暫く地球を眺めていた。


 ところで、俺は何をしに宇宙へ来たんだっけ。用事もなしにこんな所へ危険を冒してまで来るはずはない。今までの記憶が無くなっちまった。管制室からの無線が聞こえてくるが、言ってることはすべて英語で、さっぱり解らないぞ。いかん、気が動転している。落ち着け。


  目の前には計器やスイッチがいっぱい並んでいて、どれを使っていいのかわからない。とりあえず何かスイッチを押してみよう。俺は一つのスイッチに手を伸ばした。無線の向こうから「ノー」とか、「ストップ」とか叫んでいる。この船内には監視カメラでも付いているのか。


  俺のやっていることは間違っているのか。俺はスイッチを押した。機体がガタンと揺れて予備の酸素タンクらしきものがどこかに飛んでいった。ロケットは機体のバランスを崩し、回転し始めた。窓から見える地球が上になったり下になったり、視界から消えたり、気持ち悪くなりそうだ。宇宙服のヘルメットの中でゲップをしてしまった。


  まずいぞ、どうにかしないと。どっちみちこのままじゃ死んじまう。無線の向こうの声は叫び声に変わっているが、余計に何を言っているのかわからない。俺は闇雲にスイッチを押した。宇宙船の外では、積んできた人工衛星がロボットアームによって、出たり入ったりしている。


  カバーがかけてあるスイッチを押した時、ロケットエンジンが点火した。


  暫くしてロケットから操縦席が切り離され、大気圏に突入した。自動的にパラシュートが開いて太平洋の真ん中に落下した。海の上でプカプカと浮かびながら、俺はハッチを開けて、見つからないように持ってきたタバコに火を点けた。


© 2005 田中スコップ

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