一言
歯が歯があんが 2006.12.18


 ある日のこと。夕方早くに家に帰ると家には誰もいませんでした。私が一番先に家に帰ったようです。ふとテーブルの上を見ると封が開いた板チョコのパッケージが目に止まりました。家族の誰かが食べかけて放っておいたのでしょう。

 空腹であったので夕食まで待ちきれなかった私はついその板チョコを手に取ってしまいました。いかにも食べてくださいというように放置されていたので少しぐらいは食べても良いだろうとと思いました。一度胃の中に入れてしまえば、こっちのものです。後でうるさく言われても買って返せば済みそうだし、第一隠さずに出しておくほうが悪いのです。という勝手な理由が頭に浮かんできます。

 私はその板チョコを少しポキッと折って口に入れました。しばらく噛まずに口の中で甘いチョコが溶けていくのを味わいました。しかし見る見るうちに溶けてしまいすぐに無くなってしまいます。私はさらに大きいかけらを折って口に入れてみました。こんどはちょっと大きすぎて食べにくかったので噛んでみました。

 そのときです。ガリッといういやな感じがしました。チョコレートの固さとは別のさらに固い物体を噛んでしまったようです。私はその物体を飲み込まないようにチョコレートが溶けるまで口の中で転がしておりました。そして最後に口からその固い物体を出してみると、それは小さな金属のかけらでした。

 もしかしてこのチョコレートの製造段階で、老朽化した金属部品の一部が欠損して混入したのではないかと思いました。この部品の一部をチョコレートの製造メーカーに送れば同じロットの大量のチョコレートを回収しなければいけなくなるでしょう。

 しかし欠損部品が混入していたのがたまたま私が食べたチョコレートだけで他の製品に異常が無いとしたら、この一個のためにメーカーは大騒ぎする事になるでしょう。少し不快な気分になった以外は特に何ともなく、仮にその小さな金属片を間違えて飲み込んでしまっても翌日にはきっと気持ちよく出て行ってくれるだろうと思いました。

 元々面倒臭がり屋の私は他にこの欠陥チョコレートに当たった人が気になるようなら苦情を訴えたり、裁判なりを勝手にやるだろうから、まあいいかと思い金属片をゴミ箱に捨てて残りのチョコレートを食べてしまいました。

 しかしそれから少したってから歯が猛烈に痛くなったのです。歯が痛いのは寝転んでもうずくまってもどんな姿勢をしても痛いです。特に水を飲むと、ある特定の歯にしみます。そこを舌で探ってみますと大きな穴が開いているではないですか。知らないうちに虫歯が出来ていたようです。

 チョコレートに混入していた金属片の事件と、虫歯が痛み始めた事が偶然同じ時期に起こりました。私の口がたまたま同時に災難にあう時期なのかもしれません。これ以上災難が起きては困るので、わたしは翌日さっそく歯医者さんに行きました。

 歯医者さんで診てもらって、この痛みがあの金属片に関連するものであれば製菓会社を相手取って訴えを起こしてやると意気込んでおりました。

 そして私は歯医者さんに言われました。

「あー、これ。歯の詰め物が取れちゃってるね。何か固いものが出てこなかった? 水飲んだらしみるでしょ。歯の穴の周りにも虫歯が出来ちゃってるから、少し削ってからまた詰めないとだめですね」

 小さい金属片はチョコレートの製造上の欠陥ではなく、実は私の歯の穴から外れた物なのでした。その穴の開いた歯を過去に治療したことをすっかり忘れて新たに出来た虫歯だと勘違いしていました。あやうく早とちりしてチョコレートメーカーに私の歯の詰め物を送りつけてしまうところでした。もし送ってしまっていたら、訂正の連絡をいれて謝罪しなければいけなかったかもしれません。

 面倒臭い事を二度やってまでチョコレートの事件を振り出しに戻さなければならないところでした。私の性格が面倒臭がり屋でよかったと胸を撫で下ろしたのでした。

 © 2006 田中スコップ
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