一言 | |||
新宿高層ビル | 2006.10.29 | ||
昔の写真をCDに焼いたものをパソコンのモニターで眺めておりますと、新宿住友三角ビルに登った時の写真が目に止まりました。日付を見ますと1986年となっています。あれから二十年も経過したのかと思うと不思議な気分になってしまいます。 子供から大人になるまでが長く感じたのですが、学校を卒業してからはなぜか時間が異常に早く経過したような気がします。二十年などあっという間ですね。私の歳から日本人の平均寿命まであと何十年もありますが、いざ自分が寿命の歳になってしまってもそれまでの人生があっという間に感じられてしまうのでしょうか。 思えば今までの人生は何をやってきたのかと振り返ってみました。少々トロい私は生きている時間の大半を紛失物を探す事に費やしております。例えばズボンを穿いてもベルトが無く、家中を探しても結局見つからずに新しいのを買って帰ると、なんでもない所で見つかるという繰り返しです。そういった今までの無駄な時間をすべて無くすと私はまだ小学生ぐらいではないかと思います。 風貌はオッサンになったのに考えている事は二十年前とさほど変わっていません。 その日も私同様高層ビルが珍しいと感じている田舎者の友達といっしょに新宿界隈をぶらついておりました。そしていつの間にか住友三角ビルの前までやってきました。馬鹿と煙は高いところに登りたがるの例えどおり、ついでに登ってみようという事になりました。 写真に写っているのが住友三角ビルの前に立つ友達です。長い間会っていませんがどうしているのでしょうか。私は体形が激しく変わっていますので今会っても分からないかもしれません。 まずはエレベーターに乗って無料展望台まで行きました。そして特に目的も無く周りの景色を眺めたり、山手線の線路を辿って自分の住んでいるところはどの辺りか想像してみたりして時間を潰しておりました。しかし景色を眺めるのもすぐに飽きてしまいました。別段展望台に長居をする理由も無いので降りる事にしました。 エレベーターに乗って降りようと思っていましたが、五十階で非常口と書いてあるドアが目につきました。そのドアの向こうには階段があるはずです。無用な好奇心が湧いてきました。友達に階段で降りてみようと提案するとその友達も同意したのでさっそく実行に移す事にしました。鉄製の重いドアを開けるとそこには薄暗く、鉄骨の階段だけが続いている空間がありました。 我々は階段を歩いて降り始めました。しかし行けども行けども同じ景色が続きます。変わるものといえば踊り場の床に書いてある階数表示だけです。 我々のほかには人の気配がまったくありません。これだけ大きいオフィスビルで、しかもこのように誰もいない場所ではOLと上司の昼下がりの情事に出くわすかもしれません。単調な風景でもそのような不義密通が行われているかもしれないと想像すると少し興奮してしまいます。 しばらく歩いておりましたがこれだけの階数があるのだから、少しは階段を利用する人がいるだろうと思いましたが誰とも出会いません。上を見ても下を見ても鉄骨の階段があるだけです。そして聞こえる音は我々の足音だけです。狭い鉄骨の空間でその足音が響いています。突然、非常口のドアが開いて人が出てきたら少し怖いなと思っていると本当に恐怖感を感じてきました。 もし我々のほかに誰かがいて上から追いかけてこられると怖いと思います。 最初の頃はゆっくり歩いていたのですが、途中から歩くのが早くなり足音が余計に響いて我々の他にも誰かがいるような気がしてきました。私は早くここから出たいと思い始めました。そして歩いていたのが段々と駆け足になっていきます。友達も同じように恐怖感を感じているようです。 最後の十階ぐらいから下は友達と私とで先を争うようにして降りていきました。 ようやく一階に辿り着き非常口のドアを開けると、そこには人がたくさんいる普通の風景に戻りました。そして我々はいつもと変わらない新宿の雑踏に紛れ込んでいきました。 |
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