一言
路傍の仮設店舗 2006.10.15

 ある日の夕方のことでした。その人たちは路傍の目立たない場所でお店を広げて客が来るのを待っておられました。気が付かなければそのまま通り過ぎてしまいそうです。あまり頻繁には客が来ないようですが二人で営業しているみたいなので二人分の人件費を稼ぎ出そうとすれば高額商品を扱い客単価を上げるほかは方法がないでしょう。

 しかし彼らは別のところから給料を貰っているようなので客が少なくても一向に構わない様子でした。

 バイクに乗って急いでいる私は時間的な余裕もなく彼らの客になろうとは思っていませんでした。しかし強引な客引きに、なすすべも無くブレーキをかけて路傍に寄ってしまいました。営業の方も赤い旗を振りかざし猛スピードで走る車両を止めて自分の店に招き入れるのですから命がけの仕事です。私も気づくのがもう少し遅れたらその人にぶつかっていたかもしれません。その道路は下り坂の直線で、知らないうちにスピードが上がっていました。お店の人にとっては絶好の条件の場所です。

 バイクを止めるとそこには白と黒のパンダ模様で塗装されたワゴン車と白い色のオートバイが止まっていました。まるでパンダのパン屋さんがメロンパンを売っているような感じですがパンは販売されていませんでした。

 彼らが売っているのは青い色や赤い色の切符です。どちらの切符を買うかは客の立場では決める事ができません。店員さんが決めてくれます。私は自分の意思とは関係なく青い色の切符を買わされました。買わされたといっても直接現金を店員さんに出しても受け取ってもらえません。納付書を渡され、一週間以内に郵便局か銀行に持っていって払わなくてはいけません。非常に面倒くさいです。

 ワゴン車の中から伸びているコードの先には車両の速度を測る装置が接続されていて、頼んでもいないのに私のバイクの速度を計測してくれていました。そして親切にも私のバイクが何キロ出ていたのか教えてくれます。意外と紳士的な態度で接してくれました。

「はい、バイクを止めてヘルメットを脱いでください。えーっと、56キロ出てますね。ここは制限速度が40キロなので16キロオーバーですよ。免許証を拝見します。こちらへ来て下さい」

 私もスピードメーターを見ていなかったので否定する事もできず、言われるままにバイクを置いて店員さんについて行きます。回転灯が装備されている白いバイクの店員さんについて行ました。幸い天気が良かったのでその店員さんはバイクの後ろについている箱の上で書類を書いておられました。私はその横で店員さんが書類を書き終わるのをじっと立って待っています。

 横を通過する自動車が私のことを好奇な目で見ながら走り去って行くような気がして少し恥ずかしいです。どちらかといえばワゴン車に乗せられたほうがまだましな気がします。私の担当が白いバイクの店員さんだったので、他のお客さんはワゴン車の中で座って応対を受けていました。

「はいそれじゃ、右手の人差し指にこのインクをつけてください」

 と言って店員さんはスタンプ台のようなものを取り出しました。私はそれに従い、人差し指にインクをつけて書類に押しました。そうやって指紋が取られ、どこかでたまたま私が触ったところで犯罪が起きると真っ先に私が疑われてしまうのでしょうか。不安になります。

 結局、納付書には規則に従って九千円と書き込まれ値引き交渉等は一切受け付けてくれそうにない雰囲気でした。そして私はそれを翌日郵便局で払いました。自分の望んだ買い物ではないので、押し売りかキャッチセールスに騙されたみたいで非常に悔しいです。日頃、もっと無駄遣いをしているくせに、この国庫に入金されるお金に限っていえばもったいなくてしょうがありません。

 しかし実際問題、スピードの出しすぎは危ないです。事故に遭ってからあの時スピードを落として走っていればよかったのにと思っても後の祭りです。なんであんなところで店を広げているんだこの野郎と公務員の店員さんを逆恨みするのではなく、素直に最近年甲斐も無く調子に乗って公道をバイクで飛ばしている自分が反省しなくてはいけないと思うことにしました。

 翌日同じ場所を制限速度以内で走って通過しましたが、お店は出ていませんでした。毎日同じ場所で営業するわけもないと思いましたが、もしかしてそこにパンダ模様のワゴン車があるのではないかと思えばスピードが出せません。しかしその区間だけを飛ばしてもすぐに信号にかかってしまうので時間的にはゆっくり走ってもあまり変わりがありません。

 急ぐときはスピードを出すよりも、余裕を持って早く出発するか、最初から諦めて言い訳を考えておくほうがいいと思います。少々遅刻をしても、さも当然のように堂々としていれば相手もあきれて自分が責められることも無く、反対に武蔵と小次郎の巌流島の戦いのごとく戦術的に効果があるかもしれません。


 © 2006 田中スコップ
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