一言
少年仮面ライダー隊 2006.10.08
 私は小学生だった頃、藤岡弘さんが本郷猛役の仮面ライダーをリアルタイムで見ておりました。その当時、ほとんどの男子小学生はテレビで仮面ライダーを欠かさず見ていたのではないかと思います。少なくとも私の周りの友達はそうでした。おまけのカードが目当てで仮面ライダースナックを買って、中身のスナック菓子を捨てるという問題行動もありました。

 私は子供用の自転車をサイクロン号に見立てて、街中を自己評価による猛スピードで走り回っておりました。時折、自転車での空気抵抗を減らすためハンドルを持ったまま自転車に寝そべって足を伸ばす無理な姿勢で乗ったりしました。それはもう自分のなかでは最高にかっこいい乗り方だったのですがペダルを踏めないため空気抵抗の軽減以前に自転車は減速してしまい、結局は地道にこぐといういう間抜けな乗り方でした。

 遊びといえば仮面ライダーごっこです。まさにみんな仮面ライダーのつもりになって悪役などいません。仮想のショッカーに向かってめいめいが攻撃するという、いっしょに遊んでいるのにてんでバラバラの行動をしていました。

 仮にショッカーという組織が現実にあって戦闘員が「イー、イー」と言いながら襲ってきたとします。仮面ライダーによってゴミのようにやられている戦闘員ぐらいだったら自分でも勝てる気がしていました。冷静に考えて小学三、四年生が大人に立ち向かっていっても勝てるわけはありません。実際にあのような異形の集団を目の当たりにすると大人でも別の意味で怖くて近寄らないと思います。

 しかしその時は自分こそが本物の仮面ライダーだと思っていたので自分以外の友達はただ単に仮面ライダーの真似事をしているに過ぎず、怪人が現れたら他の友達を救ってやらねばという使命感もありました。

 そして妄想はさらに膨らんでいきます。自分は改造人間で、きっと寝ている間に気づかないうちに改造されているのだと思い込んでいました。本物のライダーベルトさえあればいつでも超人的な力が発揮できるのだが、怪人が現れないから自分の潜在能力が隠れたままだと思っていました。そして非常時には必ず立花レーシングの親父のような人がライダーベルトを持ってきてくれるものだと信じておりました。

 当時テレビマガジンという雑誌をを愛読しておりまして、その記事の中で少年仮面ライダー隊の募集を行っていました。いくらかの切手を同封して郵送で申し込めば数日後には少年仮面ライダー隊の隊員証を送ってきたように思います。記憶が定かではないので間違っているかもしれませんが。

 申し込んでから郵便が届くのが待ち遠しい事といったらありません。学校から帰ると真っ先に郵便受けを覗いていました。ある日とうとう一通の封書が私宛に届きました。中には隊員証が入っていました。友達に先駆けて少年仮面ライダー隊になったので、これで私こそ本物の仮面ライダーになる資格があるのだと思いました。

 さっそく友達に見せて自慢しましたが、友達は悔しいらしく、そんなもの無くてもいいというような素っ気無いそぶりを見せました。私は頼まれもしないのにテレビマガジンを友達に見せ入隊の仕方を教えてやりましたが結局ショッカーにも仮面ライダーにも遭遇する事は無く、隊員証が役に立つ事はありませんでした。

 テレビマガジンの投書コーナーにも熱にうなされた同年代の子供が仮面ライダーの四号か五号にしてほしいと相談していました。そのときの仮面ライダーからの答えとして、時が来れば君を必要とすることがあるかもしれないが、今は勉強をしっかりがんばれみたいなことが書いてあったように思います。そんな投書をするとは生意気なガキだな。次の仮面ライダーは僕なのにと思ったものでした。

 思えばその頃が一番仮面ライダーの熱にうなされていた時期でした。

 ある日いっしょに遊んでいた一人の友達が

「大事な話がある」

 と私に話しかけてきました。何だと思って聞いてみると、

「実は僕、改造人間なんだ」

 と真顔で告白しています。その友達も相当入れ込んで現実から離れています。私は彼に向かい、

「何を馬鹿な事を言っている。貴様は改造人間でもなんでもないただの子供だ。私こそ本当の改造人間だ」

 と言いそうになりましたが、本当の仮面ライダーは正体を明かさないものだと思ったので、動揺を隠し、

「ああ、そう」

 と言って通常の遊びに戻りました。彼の勇気ある告白のときの真面目な表情は今も忘れません。

 それから仮面ライダーシリーズはV3ぐらいまで必死で見ていましたが、仮面ライダーアマゾンのあたりで退屈になってきました。そして自分のことを改造人間だと思ってはばからなかった事が恥ずかしく思えてきました。

 かくして私は仮面ライダーから熱が冷めたのでした。
 
 
 © 2006 田中スコップ
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