一言
踏切無視 2006.07.08

 人通りの少ない田舎の道に踏切がありました。道幅が狭く両側から自動車が来るとその踏み切りではすれ違うことが出来ないぐらいの幅です。私は自転車でその踏み切りに近づいておりますと突然カンカンと警鐘が鳴り始めたので踏み切りの手前で止まりました。

 遮断機は警鐘が鳴り始めてもすぐには降りてこないので、時として警鐘が鳴っていても急いでいれば渡ってしまう人がいます。私はそんなに急いでいなかったので止まったのですが、その踏み切りに私の後ろから徒歩で近づいていたスーツにネクタイ姿のサラリーマン風の少し頭が薄くなっている中年男性が、警鐘が鳴るのをおかまいなしに踏み切りを渡り始めたのでした。

 すぐには電車は来ないので電車に轢かれることはないと思いますが、その男性はまるで自分は度胸があるのだと誇示するかのようにゆっくりと落ち着いて渡っています。もしも踏み切りを渡る途中に線路の隙間に足でも挟んで抜けなくなったらどうするのだ、切羽詰っても助けに行ってやらないぞと思いました。少しは急げばいいのに遮断機が降り始めてもまだその人はマイペースで渡っています。

 遮断機の黄色と黒のトラ模様の棒が降りているのに気が付かないわけがありません。わざと落ち着いているフリをしているのでしょうか。その中年男性を見ているのは私しかいません。私に向かって度胸を誇示されても困ります。感心したような表情でもすれば満足してもらえるのでしょうか。その人とは面識も無いので関わりたくもありません。

 その中年男性が渡りきろうとしたその時、遮断機の棒が彼の頭を直撃しました。脂ぎった頭にゴンと当たり、彼の行く手を阻むように遮断機が下りました。彼は、

「痛てえな、このやろう」

 と叫び、体の前で障害物となっている遮断機の棒を強引に持ち上げ、踏切を通過して行きました。

 日頃から余程ストレスが溜まっている人なのでしょうか。どうしようもない憤りや焦燥感をぶつける場所が無いのでせめてもの抵抗を文句を言わない踏み切りにぶつけているような気がします。

 私は線路の向こう側を遠ざかっていく中年男性を見ていましたがまもなく電車がやってきて視界を遮られてしまいました。

 © 2006 田中スコップ
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