一言
	静止スズメ	2006.07.01
	その日は風が強い日でした。見上げるとスズメが一羽、電線に止まっておりました。 　そのスズメは餌でも見つけたのでしょうか不意にその電線から飛び立ちました。小さな羽で勢いよく羽ばたいています。しかし風上に向かって飛んでいるので一向に前に進みません。まるで空中に静止しているがごとく同じ位置でバタバタと羽ばたいています。 　暫くしてそのスズメは疲れたのでしょうか、少し羽ばたくのを止めると、途端に自分が向かおうとする方向の反対へ風で流されてしまいます。そのスズメは何を考えているのか、またしても風上に向かって羽ばたき始めました。そしてさっき静止していたところまで行こうと激しく羽ばたいて飛んでいます。 　見ている私の手のひらが汗ばみ、心の中でガンバレガンバレと応援してしてしまいました。しかし何の為にこのスズメは努力しているのかよくわかりません。 　スズメは一生懸命羽ばたいて元の所まで戻ると、またそこで静止しています。特に餌を獲ろうとしているようには見えません。まさに同じ位置で静止するために飛んでいるようでした。 　飛ぶという行為はスズメにとって体力を消耗する行為のはずです。移動する目的以外では飛ばないほうが楽に決まっています。どう見ても風上に向かって飛びながら静止しているのを楽しんでいるようにしか見えません。スズメも遊んだりするのでしょうか。 　私はそのスズメを暫く観察していました。さすがにスズメも同じ場所でバタバタと飛ぶのに飽きたのか、はたまた疲れて休憩しようと思ったのかはわかりませんが、クルリと風下に方向を変えると風に乗って何処かに飛んでいってしまいました。 　遊んでいるにせよ、人間では理解できない目的によって飛んでいるにせよ、小さい体で一生懸命同じ場所で羽ばたいているのを見るとなんだか健気だなと思いました。私もこんな文章を書くのが趣味だといっても、家族から見れば夜な夜な適当なことを書いて遊んでいるように思われているので、結局私も風上に向かってジタバタと飛んでいるのと変わらないような気がします。あのスズメが他人に見えません。
	© 2006 田中スコップ
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