一言
単車無宿 2006.06.17

 私は昔、一人でバイクに乗ってよくツーリングしていました。私は何かを計画して行動するのが大変苦手で、暇があるとある日突然ツーリングに出かけて、行き当たりばったりの旅行をしていました。

 特にお金が無いわけでもないのに事前にどこへ行くのか自分でも分っていないのでホテルや旅館の予約のしようがありません。ツーリング先に高校のときの友人がいたら何日も下宿に転がり込んで迷惑がられたりしていました。寝袋は持っていたので適当な所で野宿もしました。

 そういう風に、例のごとく四国へ旅行に行った時のことです。とりあえず行ける所までバイクを走らせておりました。高知県の海岸沿いを走っておりますと辺りはすでに真っ暗になってしまったので、どこか寝るところは無いかと、ゆっくり走って探しておりました。

 すると屋根つきのバス停を発見しました。テントも持っていないのでこれ幸いと、そこを一夜の宿にしようと思い、バスの時刻を確認して、最終のバスが出てからその屋根を拝借することにしました。真っ暗な海岸のコンクリートの堤防に座ってバス停の様子を遠くから窺いながら時間をつぶしました。

 最終バスのライトが近づいてバス停に止まり、乗客が一人だけ降りてバスは遠ざかっていきました。その乗客が視界から消えてから私はバイクに乗ってそのバス停に行きました。バイクのヘッドライトを消し、エンジンを切ると、闇の中、静寂が訪れました。私は寝袋をバス停のベンチに広げ、寝袋にもぐりこみました。

 しかし、夏真っ盛りの時期だったので大変蒸し暑く、寝袋に入っているとサウナ風呂のようで、とても寝付けません。私は寝袋のジッパーを開けて寝ることにしましたが、今度はやぶ蚊の大群に襲われ痒くて眠れません。寝る場所を間違ったと思いましたが、他の場所を探す気力も無く、明け方まで寝袋の中で暑いのを我慢しながら目を瞑っておりました。

 周りが白々としてきた時、始発のバスがやって来て不審に思われても困るので私は寝袋からゴソゴソ這い出しました。そして暗かったときには分らなかった景色が目の前に広がっていたのでした。

 辺り一面が広大な墓地だったのです。もともと霊感の無い私ですが、さすがにこんなところで一夜を過ごしたのかと思うとあまりいい気持ちではありません。昨日の夜、時々聞こえた狸か何かがゴソゴソと動き回る音はもしかして違うものだったのかもしれないのではと想像が膨らんでしまいます。やぶ蚊が多いのもやっとわかりました。

 私は急いで寝袋を畳み、バイクのエンジンをかけて、出発しました。しかしあまり寝ていないものだから居眠り運転になって事故を起こすと大変なので、道沿いの広い所を見つけ寝袋を枕にしてアスファルトの上に寝転びました。雨が今にも降りそうだったのですが、眠気のほうが勝ってしまい、すぐに意識を失ってしまいました。しかしおぼろげながら雨の音が聞こえてきたのを覚えています。

 動く気力がないまま雨に打たれて、暫く眠りこけていました。意外と雨の中でも疲れていれば眠れるものです。道行く人にはさぞ気持ち悪い印象を与えたことでしょう。冬だったら凍死するところです。もっとも根性なしの私は寒い時期にはツーリングに行きません。

 今考えるともっと違う旅行のしかたがあるのでしょうが、当時はそれでよかったのです。機会があったらまたバイクでブラリとどこかに行きたいです。


 © 2006 田中スコップ
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