一言
不審な紙袋 2006.05.11

 またもや高校の時の話です。

 いま、こうやって文章を書いているので、さぞ文化系の教科が得意だったのだろうと思われるかもしれませんが、私はただ単にくだらないことを考えるのが癖になっているだけで、こんな文章をいくら書いても学校の成績とは無関係です。

 自分が好き勝手に書くのはいいのですが、いざ本を読むとなると、読んでいる最中から気が散って内容を覚えていないことが多く、国語の教科書を読んでも、全然面白くないので、文字を目で追って読んだ気になるだけでした。しかも漢文に至っては、記号がずらりと並んだ現代アートを鑑賞しているようなもので、さっぱりわかりません。

 世界史もどこでつまずいたか、途中からわからなくなり、授業についていけなくなりました。これは最初からやり直さねばと家に帰って頭に鉢巻きを巻いて教科書を読み始めましたがネアンデルタール人や北京原人のあたりで早くも退屈になって、気分転換のため意味無く自転車で外をうろつたりして帰ったら結局寝てしまったりしました。

 そういうわけで私は一応進学希望だったですが、文化系の科目は全く駄目で仕方なく理科系の進学クラスの底辺を漂っていました。しかもそのクラスは男ばかりで全然面白くなく、かわいそうに思ったのかどうかはわかりませんが、そういう私を見て、他のクラスのある友達が、ある日下宿に遊びに来て、使い古しのエロ本をくれると約束してくれました。

 その友達がさんざん見たエロ本を貰ってもちょっと気持ち悪いような気がするのですが、私も多感な時期でそういった性的表現の本には興味もあり、くれるというならありがたく貰っておこうと思いました。そしてその日はそのまま友達は帰りました。いったいどんなエロ本をくれるのでしょうか。

 その当時、ビニ本なるものが巷に出回っておりました。それは透明のビニール袋に入れられて販売されていて、きわどい修正により、女性の一部分がほとんど露出した状態の写真であったり、透けて見えそうな下着を着用し、その下着に隠れている部分の形状が容易に想像できるような写真を掲載している写真集です。

 しかし住んでいる町からビニ本を売っている所まで行くには電車で三十分ぐらいかかります。その友達は貰った小遣いのほとんどをビニ本の購入費用にあて、電車賃がもったいないので、長距離を自転車で買いに行くという筋金入りのビニ本コレクターだったのでした。しかし、いかんせんモデルも本の出来も低品質なものが多く、鑑賞に耐え得るビニ本はごく僅かだったようです。多分、私に渡そうとしていたものはその増えすぎた鑑賞に耐えない本を親に見つからないように処分するのが目的だったのではないかと思います。きっと、当たりのビニ本はベッドの下などの目立たない所に隠してあるに決まっています。

 約束してくれた翌日、私は休憩時間にトイレに行って教室に帰ってくると私の机の周りに人だかりが出来ていました。黒い学生服の男子連中がまるでゴミ捨て場のゴミを漁るカラスの大群のようにむらがって、教科書とは明らかに違う本を広げて熱心に見ています。

 友達が昨日の約束どおり、手提げの紙袋に入れた大量の使用済みビニ本を学校に持ってきて、私の机の横にこっそりと置いて去っていったのでした。突然現れた不審な紙袋に気付いた同じクラスの誰かが、勝手に紙袋の中身を覗いたら興味深い書籍を発見してしまい、飢えた野獣たちがそれにおびき寄せられてきたのです。

 スケベ心に学校の成績は関係ありません。親切な友達が持ってきたビニ本を、かなり偏差値が高いやつも見ています。私はそいつらをかき分け、机に辿り着くと周りに向かって、この本は自分の物ではなく、友達が勝手に持ってきたもので、決して私が収集したものではないことなどを訴えました。しかし訴えれば訴えるほど、言い訳がましく聞こえるようで、みんなは段々と冷ややかな目になっていきました。

 そして休憩時間も終わりに近くなったので、みんなは私の机の上にてんでにビニ本を置いて席に戻っていきました。私はそれらを手提げの紙袋にしまい、足元に置きました。授業中に教師に見つからないかヒヤヒヤものです。結局、見つかって没収ということはなかったのですが、あまりああいうものは学校を受け渡し場所にするのはまずいと思い、放課後、ビニ本をくれた友達に、学校に持ってこないでくれと文句を言いました。彼も女子がいるクラスで不審な紙袋を隠し通せる自信がなかったらしく、やむなく目立たないように私の机の横にこっそりと置いたのだと白状しました。

 授業が終わって私は下宿に帰り、ワクワクしながら紙袋からビニ本を取り出しパラパラとめくってみました。しかし想像通り、人からタダで貰うものにろくなものはありません。どれもこれも見るに耐えない、汚い写真ばかりで、人にくれてやっても少しも惜しくないと思えるものばかりでした。わたしもそんな本を下宿に隠していて、留守中に親が突然やってきて片付けでもして見つかったらまずいと思い、友達には悪いが、その紙袋の中身が見えないように、ガムテープで止め、ゴミの日にこっそり出しました。

 今でも田舎の国道沿いの囲いが設けてある変な本の自動販売機の前を通りすぎる時に、ふとその友達のことを思い出したりします。
 © 2006 田中スコップ
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