一言
苦いお酒 2006.04.28

 私が高校生だった頃、家と学校が遠かったもので、下宿をしておりました。親と離れて暮らしていたせいで悪さをし放題の手がつけられないとんでもない不良でした。というのはウソで、気が弱い私は普通に学校に通っていました。しかし今になって下宿時代の事を思い出してみて少しだけ自分でもすごいと思ったことがあります。

 その当時、時計といえば腕時計だけで、目覚まし時計を持っていませんでした。一人暮らしで、起こしてくれる人など誰もいませんでしたが、毎日決まった時間に目が覚めて、遅刻せずに学校に通っていたのでした。その時はそんな生活が当たり前だと思っていたので、目覚まし時計を買おうとも思わなかったのです。

 予習復習どころか宿題もしない、しかも何もせずに学校に行くと怒られるので学校が楽しくない、という悪循環を繰り返し、朝起きるのが憂鬱だったのもかかわらず、起床時間だけはなぜか正確だったというのは今考えてみると不思議なことです。多分一度遅刻するとその日を境にズルズルと学校に行かなくなってしまうのではないかという危機感があったのだと思います。

 気が弱くオドオドしている私でしたが、ある日の夜、突然グレてみようと思い立ちました。まずは酒を飲んでみようと思い、夜の商店街に小銭を握り締めて出ていきました。どの店も閉まっていて、電柱に取り付けられた街灯がところどころに灯っているだけです。私の他には人が見当たりません。しめしめ、未成年が酒を買うには絶好のロケーションです。

 少し歩くとすぐにビールの自動販売機を見つけました。私は周りの様子を伺い、人がいないのを確認すると小銭を入れて、三五〇ミリリットル入り缶ビールを一つ買い、逃げるように下宿に帰っていきました。下宿に帰ると、気分はすっかり不良(ワル)です。コップを出して蓋をプシュッと開けると思いのほか泡がたくさん出てきて驚きました。走って帰ってくるときにかなり揺れていたのです。

 そのときまで私はビールを飲んだことがありませんでした。時々父親がうまそうに飲んでいるのを見て、どんなにうまい飲み物だろうかと思っていました。少しだけ口をつけてみました。苦いだけで全然うまくありません。こんな飲み物をよく買ってまで飲むやつがいるのだと思いました。しかし、そのまま捨ててしまうと、せっかくの小遣いが無駄になってしまうと思い、何とか飲みやすくする方法はないかと考えました。部屋にある小型の冷蔵庫を開けてみると、まだ飲めるパック入りの牛乳を発見しました。

 その牛乳をビールに混ぜてみれば、まろやかな味のビールになるかもしないと思い、早速混ぜて飲んでみました。

 それは苦い牛乳とでも表現すればいいと思います。とても飲めたものではありません。しょうがないので砂糖を混ぜてみることにしました。砂糖を入れて溶けるまでかき混ぜました。味の方はまったく期待していませんでしたが、飲んでみるとやはり、余計にひどい味に変わっていました。これ以上はどうしても飲めなかったので、やむなく、流し台に捨てました。

 こうして私の不良化計画は最初の一歩で頓挫してしまいました。大人になった現在でも、ビールは余程喉が渇いたとき以外ではうまいと思ったことはありません。しかも喉が渇いているときは、別にビールでなくても水でもジュースでもいいのです。私はビールの必要性をあまり感じていません。懇親会などの席上では乾杯の時には飲みますが、すぐに日本酒や、焼酎に変えてもらいます。

 一度テレビのグルメ番組でレポーターに牛乳混ぜビールを飲んで、どんな顔をするのか見せてもらいたいと思ったりもします。
 
 © 2006 田中スコップ
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