一言
文芸クラブ 2006.03.21

  高校の時、私は陸上部に入って校庭を毎日走っていましたが、週に一回のクラブ活動はなぜか文芸クラブにいました。文武両道だと思われるかもしれませんが、当時、私は四百メートルハードルの選手で、出場する大会はすべて予選落ち、しかも学校の成績は赤点、追試、補講のオンパレードで、よく卒業出来たなと自分でも不思議なぐらいでした。どちらかというと二兎を追う者は一兎をも得ずという状態でした。

 そんな私が文芸クラブにいた理由は、その場が、授業中にノートを取るフリをしながら書いた作品を発表できる唯一の機会だったからです。私は毎週クラブの時間を楽しみにしておりました。

 文芸クラブはあまり人気がなくて、ほかのクラブに比べて人数が少なく、女子が五人ぐらいと男子は私と、私が誘ったナンパ目的の友人だけでした。当然友人は作品なんぞは書かずに時間つぶしに来ているようなものでした。私は多感な時期に、クラブ内で女子に囲まれていたにもかかわらず、彼女もいませんでした。もっとも、文芸クラブにいた女子の面々は、いかに私がストライクゾーンが広くとも、男子を寄せ付けない神経質オーラが出ていたため、恋愛対象とするにはきついキャラクターの人たちでした。

 多分、向こうも私があまりにもばかばかしい作品を発表するので「なに、このバカ」と思っていたにちがいありません。私の友人も、つられてこんなクラブに入るんじゃなかったと思っていたことでしょう。

 女子が書く作品は、いつも私の嗜好とは、かなりかけはなれた作品ばかりでした。本人は真面目に朗読して、他の女子もわかっているような顔をしていましたが、私には難しすぎてなんだかよくわからなかったので、誰もこっちを見ていないのをいいことに、鼻をほじくりながら聞いていました。そういうふうに、あまり人の作品を真剣に聞かなかったせいか、自分の作品以外は印象に残った作品はありません。

 ある日、授業中に書いた作品が自分で読んでも面白くて、その授業中に、近くの同級生に回して読んでもらうと、あまりのバカバカしさに声を殺して笑い始めたので、これはいけると思い、文芸クラブに持っていって発表することにしました。たしか宇宙人が子供電話相談室に電話するという内容だったと思います。

 女子の芸術作品の発表が終わり、いよいよ私の番です。私は自分の作品を、笑いをこらえながら読んでいると、女子の中に一人だけ、「ぷっ」と吹き出す者がいました。私はその女子に向かって心の中でガッツポーズをしてしまいました。他の女子は無感情に、何事もなく座っています。私の朗読が終わってもその女子は「くっくっくっ」と笑いが止まらないようでした。私はウケたのがたったの一人であっても、勝ったと思いました。

 時間終了前の講評会ではいつものように私の作品に対する感想はだれ一人として発言する者はいなくて、無視されていたのですが、手応えは感じました。笑った女子が少しだけ人間的に見えました。

 その当時書いた文章はたくさんあったのですが、高校卒業と同時にどさくさで無くしてしまいました。しかし、今それらの作品が残っていても、大体において、印象に残った思い出というものは、少しの事でも自分の心の中で都合がいいように誇張されているかもしれないので、案外たいしたことない作品だろうと思います。

 また機会がありましたら、思い出して書いてみたいと思います。面白かったらこのホームページで発表したいと思います。気長にお待ちください。

   
 
 © 2006 田中スコップ
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