「任侠ブランコ」 ある夏の白昼のことだった。僕が道を歩いていると、向こうから陽炎に揺られて、怖そうな人がやってきた。その人は顔に大きな傷があり、眼光が鋭く、夏だというのに汗ひとつかかないで縦縞のダブルのスーツを着て、頭にパンチパーマをあてていた。これはあまり係わり合いにならないほうがいいと思った。 僕はその人とすれ違う時になるべく目を合わせないよう、伏し目がちに歩いた。それでも少しだけチラッと見たら、相手はこちらをじっと見ていた。また目を伏せて、通り過ぎようとしたら、 「おう、待ったらんかい、ワレ」 僕は驚いて足が止まった。僕が何か気に障るようなことでもしただろうか。男は僕の背後に近づいて、下のほうから僕の顔を覗き込んで言った。 「兄ちゃん、暇やろ。ちょっとつきおうてくれへんか」 本当は暇なのだが、どこに連れて行かれるか分らないので、 「いや、ちょっと用事がありますので」 といって立ち去ろうとした。 「なんじゃい、ワレ。なにすかしとんじゃ、コラ」 男は上着の内ポケットに手を入れた。一瞬、僕は身構えたが、ポケットから出てきたものは、フジヤのミルキーバーだった。ポキッと折ってポイッと口に入れた。男はうまそうに口をモグモグさせながら言った。 「ちょっとでええねん。来てくれへんかっちゅうとんねん」 僕はしぶしぶついていった。ついたところは近所の公園だった。男は公園のブランコに乗った。僕は隣のブランコに腰をかけた。最初、男はうなだれて、ゆっくりこいでいたが、段々と激しくこぎはじめた。男は泣いているようだ。何か嫌なことでもあったのか。なにかを振り切るように男はブランコをこいでいる。そばで見ているほうが怖いくらいの勢いで、ブランコのチェーンがほとんど水平になるほどこいでいる。男は大声で独り言を言った。 「おやっさん、すんまへん。わいがしょうもない奴やさかい、こないなことになってもうて……」 僕はブランコから離れて、少しずつ逃げようとした。男はこちらを一瞬見て、 「なにやっとんじゃ、コラ。いてまうぞ」 と言って、両手をブランコから離すと、背中から落ちた。男は背中を強打して息が苦しいのだろう、息を吐くことはできても、吸うことができないようで、しばらくゼエゼエ言っていたが、上を向いたまま動かなくなった。死んだのだろうか。僕は男を覗き込んだ。突然、男の目が開いた。 「おい兄ちゃん、ええ天気やのう。体、動かされへんねん。119呼んだって」 僕は携帯電話で救急車を呼んだ。男はタンカに乗せられて救急車に乗り込み、僕は去っていく救急車を見送った。 special thanks 大阪弁アドバイザー キューティー羽 © 2005 田中スコップ |
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